Top  since 2001/04/24 back


日( )
2010年7月31日()
 
久しぶりのフロキシン+消しゴム法
 
 トキイロヒラタケを持ち帰ってしまった(a, b)。持ち帰ったからには、捨てる前に一通り観察せねばと、胞子紋をとり胞子を水(c)、メルツァー試薬(d)、フロキシン染色(e)でみた。ヒダを一枚スライドグラスに寝かせ、フロキシンを加えKOHで封入して縁をみると縁シスチジアがある(f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 そこでヒダの断面を切り出して、先端部をみた(g, h)。縁シスチジアは薄膜で棍棒形。ヒダ実質は錯綜型。カサ表皮は菌糸が匍匐しつつ入り乱れている(i, j)。菌糸にはクランプがあるが(k)、担子小柄をつけた担子器は見つけられなかった(l)。
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 ヒラタケの仲間は組織が強靱でなかなかうまく押し潰すのが難しい。厚膜で長い菌糸がやたらに目立つので、いわゆるmitic方式による菌糸型を確認してみた。硬質菌でおなじみのフロキシンと消しゴムを使って菌糸をほぐす作業をした(雑記2003.9.18〜9.20同2009.2.18)。
 きのこの組織から小片を切り出してフロキシンで染め、やや高濃度(10〜15%程度)のKOHで封入する(m, n)。カバーグラスの上から消しゴムでゴシゴシやって菌糸をほぐす(m, o)。カバーグラスの表面側にもKOHが回って汚らしくなった(o)。根気のいる作業で、一気に押し潰そうとすればカバーグラスが割れたり、小片がカバーグラスの外に飛び出してしまう。ジワジワとやや時間をかけてほぐすのがコツのようだ。久しぶりの消しゴム使用だった。
 対物40倍でみると厚膜で長い菌糸が多数みられた(p, q)。油浸100倍レンズでみても、骨格菌糸のように見える(r)。しかし、ステージを移動させて菌糸の端を追っていくと、隔壁があったりクランプがあったりした(k)。骨格菌糸のように見える多くの菌糸には隔壁がある。保育社図鑑のトキイロヒラタケの解説をみると「肉組織の菌糸構成はmonomitic」、つまり一菌糸型とある。

2010年7月30日(金)
 
NDフィルター
 
 日本菌学会菌類観察会(愛媛フォーレ)の参加申込み締切が明日に迫った。参加予定でまだ申込みをしていない方もいることだろう。今日明日のうちに申込みをされたい(詳細は日本菌学会のホームページ [2010年度日本菌学会菌類観察会(愛媛フォーレ)のお知らせ])。

 顕微鏡撮影をする場合、当初は肉眼視のあと明るさ調整つまみで照明電圧を下げてシャッターを切っていた。一眼レフの場合、シャッター速度を1/5〜1/2秒程度にしないと、シャッター幕の振動の影響で画像がブレやすい。しかし照明電圧を下げたままシャッターを切ると、色温度が変化して画像の色再現性が悪くなる。そこで、あらためてホワイトバランスをとりなおしていた。
 ところがこれが結構面倒くさい。ステージを移動させて視野に試料が何もない状態にして、ワンタッチホワイトバランス(オリンパスの場合)をとる。このとき一度ライブビュー画面をオフにしなくてはならない。その後に再びステージを操作して視野の中に試料がくるようにして、改めてライブビュー画面をオンにする。そこでやっとシャッターを切ることができる。
 明るさ調整つまみの操作が面倒なため、途中からはNDフィルターを使うようになった。当初はND2タイプとND4を使い分けてシャッター速度を確認していた。これだと光量が1/2ないし1/4になる。それでも明るすぎる場合は、2枚のNDフィルターを重ねて光量を1/8にする。多くの場合、ホワイトバランスを取り直さなくても色温度に大きな変化はないように感じる。
 なお、シャッター幕の振動の影響と対策については、2年ほど前にオリンパスのホームページ [顕微鏡用デジタルカメラ DSE330][Q&A:撮影した顕微鏡画像がボケている] ではじめて知ったが(雑記2008.8.15同2009.1.2)、最近ではすでに常識となっているようだ。


2010年7月29日(木)
 
きのこは少なかった
 
 昨夜東北の山から戻ってきた。鳥海山には多くの登山道があるが(a)、今回は数ヶ所の登山口から歩いた。中でもアプローチの不便な百宅口は人の訪れもほとんどなく静かな山旅ができる(b)。月山は北側の八合目駐車場まで舗装され、大型の観光バスまで走っていることに驚いた(c, d)。蔵王はさすがに人が多かった(e)。吾妻連峰の土湯峠遊歩道を訪れる人は少ない(f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 きのこはとても少なかった。出会ったキノコといえば、テングタケの仲間とベニタケの仲間が大部分で(g〜k)、ミズゴケから発生するキノコは不作だった。宿に戻ると、その日採取したキノコを観察しつつビールで喉を潤すのが常だった(l)。今回は山中の悪路走りが多いので、三眼鏡筒の中型顕微鏡はやめて、小型顕微鏡を持って行った。単眼顕微鏡は目が疲れる。

2010年7月26日(月)
 
東北も暑い
 
 昨日から鳥海高原に宿をとっている。埼玉県に比較すると少しは気温が低いのだろうが、ここも暑い。宿にはエアコンがはっている。宿の窓からは鳥海山北東面が見えている(a)。東北面からの登山口である祓川からの登山道には残雪がとても多い。登山道は湿原から始まり(c)、これを過ぎると直ちに雪渓が行く手を阻む。行く手には数々の雪渓がまちうける(d)。
 それに対して西側登山口の鉾立からの登山道の残雪は例年通りかやや少ない。賽の河原までいくとようやく小さな雪渓が現れる(e)。今日はこれら北東面の雪渓や、西側面の雪渓の周辺を探索した。雪渓に至るまでの登山道は非常に暑く汗まみれになるが、雪渓はとても涼しく快適だった。雪渓の周辺でのんびりしていると、いつまでもそこに留まりたくなる。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 北東面からの道と西面からの道を登って、おもに雪渓の周辺をていねいに観察したが、目的のものは見つからなかった。宿に戻ってみると無線LANが使えることがわかった。こんな僻地の山の中でと、驚いた。ふと腕をみると激しく日焼けしていた(f)。きのこはとても少ない。

2010年7月25日()
 
今日から鳥海山へ
 
 まだ暗い早朝。これから出発して、秋田県側から鳥海山に登ることになった。天候のあんばいと、菌類・蘚苔類・地衣類の調査もあるので、何度か登り返すことになりそうだ。帰宅するのは多分28日以降だろう。4〜5日間は「今日の雑記」もお休み。
 出発前に、忘れられて冷蔵庫に数日間放置されていたイグチをひとつ観察した。クリイロイグチによく似た小さなイグチだ(a〜c)。紙袋を開くと管孔部は黄褐色となっていた(d, e)。現地で目視による観察結果は、カサ表面と柄の表面はほぼ同色で、管孔は柄に対して離生で白色。傷つけても変色しない。柄は同幅で断面は2層からなり内部は疎から中空。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 子実体、(b) 裏面、(c) 縦断面、(d) 二晩経過した標本、(e) 管孔と柄の上部、(f) カサの表面、(g) 柄の表面、(h) 胞子、(i) 子実層托実質、(j) 縁シスチジア、(k) 担子器、(l) カサ表皮

 胞子は空豆形。縁シスチジアは棍棒形〜紡錘形。カサ表皮は紡錘形〜円柱形の組織がやや立ち上がる。全体がフニャフニャとなって管孔部実質の切り出しに難儀した。半乾燥状態にするか新鮮なうちに観察すればずっと楽だったろうと思われた。何とも小さく柄も細いが、やはりクリイロイグチかその近縁種のようだ。カサ表皮の菌糸組織が特徴的だ。

 これから数日間は不在ゆえ、このイグチを含めて残っていたきのこはすべて処分した。


2010年7月24日()
 
スペーサーのこと
 
 顕微鏡の接眼部でピントを合わせたら、同時に三眼鏡筒のデジカメ画像もピントが合うのが理想だが、なかなか思い通りにいかない。この件では、フィルム式撮影装置を流用していた頃からいろいろ悪戦苦闘してきた(雑記2007.7.29)。一時期は、撮影用のリレーレンズの位置調整に紙で作ったスペーサーをかませていたこともあった(a)。これは結構うまくいった。
 三眼部の直筒は高さや位置調整ができない。(株)マイクロネット製のレンズ一体型アダプタを使うようになってからは、アダプタの装着位置を調整する必要があった(同2009.1.2)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 アダプタの装着位置調整には、数年前作った紙製のスペーサーを使っていた。接眼部で合焦したとき(b)、カメラ側でも合焦する位置(c)との差、dd' に相当する厚さのスペーサーをかませていた。ところがカメラの重みで、紙製のスペーサーはいつの間にか押しつぶされて厚さが変わり、当初きちんと合っていたカメラ側のピントは最近ではかなり狂っていた。
 そこで、JIS規格の平座金を使ってみたり、プラスチック製の瓶を輪切りにしたりと、再び悪戦苦闘してきたが、どれも帯に短し襷に長しだった。そこで、あらためて友人にアルミ製のスペーサーを作ってもらった(d, e)。ようやく、小型 Hi-Vision テレビの画面と接眼部の画像が近い姿になってきた(同2009.1.21)。撮影時は、顕微鏡の照明部にNDフィルターを載せる。

2010年7月23日(金)
 
愛媛フォレー:参加申込み
 
 10月9日(土)〜11日(月・祝)に行われる2010年度日本菌学会菌類観察会に、昨日参加申込みのメールを送って、参加費などを郵便振替で振り込んだ。10月なんてまだまだ先のこと、そう思っているうちに申込みの締切日(今月末)が近づいてきた。 埼玉から愛媛は遠い。しかし、経費のことを考えると、二人で交互に運転しながら車で行くしかない。どうせ車で出向くのであれば、途中で面白そうなところに寄りながら現地に行くことになるだろう。

 今朝のNHKのテレビでキヌガサタケのことを報道していた。「珍しいキノコではないが、開花(?)の様子を撮影するのは大変だ」とあった。理由として、マントを広げるのは早朝の時間帯だからと解説していた。確かに、早朝にマントを広げるものが多い(雑記2001.7.12)。しかし、秩父のキヌガサタケには、正午近くから午後にかけてマントを広げるものがかなりある。また、持ち帰ったタマゴでは、開花の時間帯はかなり自由に選ぶこともできる。


2010年7月22日(木)
 
ハラグロニガイグチ?
 
 秩父ではニガイグチ属 Tylopilus もいろいろ出ていた。先日は原則としてアワタケ属とウツロイイグチ属、オニイグチ科だけしか持ち帰らないはずだった。ところが、なぜかハラグロニガイグチではなかったウラグロニガイグチがひとつ混じっていた。おまけに現地で切断面の画像まで撮影している(d)。柄の内部は「淡帯紫灰〜淡帯紫褐色」と図鑑にあるが、なんとなく黒っぽい縦縞汚れがある。きっとこれが噂のハラグロニガイグチだろう。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(a, b) 子実体、(c) カサ裏面、(d) 縦断面、(e) 胞子、(f) 管孔部縦断面、(g) 管孔部横断面、(h) カサ表皮、(i) 縁シスチジア、(j) 側シスチジアと担子器

 このキノコ、側シスチジアがやたらに少ない。孔口部を取り去ってから管孔部の一部を取り出して、フロキシンで染めて3%KOHで押し潰してみると、所々にシスチジアが捉えられた(j)。
 アワタケ属とウツロイイグチ属は、冷蔵庫に入れたおいた。紙袋を開けて覗いてみると、白色のウジ虫が這い回りかなりの臭気を放ち、一部は液化しはじめている。観察はやめにして、これはもう捨てるしかなさそうだ。

2010年7月21日(水)
 
変化に富んだオニイグチ類
 
 「オニイグチ科」について、保育社図鑑(I; p.273)には「胞子に模様のある,または胞子がいちじるしく大形か,もしそうでなければいちじるしく厚膜なイグチ類を包括する一群」で、「多分に人為的な色彩が濃く」としるされている。学問的・分類学的概念としては不適切であっても、やはり人為的な分類である「腹菌類」と同様に、用語としては便利なものだ。
 いわゆるオニイグチ類のイグチの胞子は変化に富んでいて、顕微鏡を覗いて遊ぶには最適なきのこといえる。胞子観察だけなら、胞子紋をもとにプレパラートを簡単に作れる。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 現地で切断、(b) 採取から数日後に切断、(c) カサ裏面、(d) カサ表面、(e) 胞子、(f) 管孔部を縦断、(g) 管孔部縦断面、(h) 縁シスチジア、(i) 管孔部横断面、(j) 側シスチジア、(k) 管孔部実質、(l) シスチジアと担子器

 過去に何度も見ているが、今朝もまたキクバナイグチの胞子やらミクロの姿をみて楽しんだ(雑記2009.8.17同2006.8,29同2005.3.2同2003.8.10)。(h) は (g) の一部、(j) は (i) の一部だ。管孔部の実質は散開型(k)。縁シスチジアと側シスチジアは同じような形と大きさだ(h, j, l)。

 ヒダをもったきのこでは縁シスチジアの確認は簡単だ。ヒダを一枚スライドグラスに寝かせて縁をみればよい。ところが、イグチの縁シスチジアは結構面倒だ。孔口部の先端部を切り取ってスライドグラスに寝かせて縁をみるのが楽だが、そこは管孔ゆえヒダの縁のようには行かない。
 ふだんイグチ類を観察する場合は、たいてい孔口先端部を含めて管孔部をまとめて縦断している(f)。これには実体鏡が活躍する。こうすれば、縁シスチジアと側シスチジアが存在する否か、さらに両者の形の確認ができるからだ。管孔部の縦断面を得るのは、生状態よりは半乾燥状態の方が切り出すのが楽だ。今朝は生から切り出した。


過去の雑記

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2010
2009 中下 中下
2008
2007 上中
2006
2005
2004
2003
2002
2001

[access analysis]  [V4.1]