Top | since 2001/04/24 | back |
|
|||||||||||||
先月末採取したチャナメツムタケはすべて食べたと思っていたら、一本だけ冷蔵庫のなかで干からびた状態で残っていた。傘表皮は楽に剥がれ、傘肉は強靱になっていた。 ヒダを一枚切り出した(a)。ヒダ実質は並列型で、縁にも側にも多数のシスチジアがある(b)。胞子は内壁、外壁が明瞭にわかるが、発芽孔ははっきりしない(c)。KOHやアンモニアでマウントすると、多数のクリソシスチジア(黄金シスチジア)があることがわかる(d)。これはフロキシンを加えても明瞭にわかる(e)。側シスチジアにはクリソシスチジアではないものもあり(k)、フロキシンで内容物がピンクに染まる。クリソシスチジアと並んだ状態のものを撮影した(f)。 側シスチジアの先端付近に、ところどころ分泌物の様なものがついている(g, i)。メルツァー液ではその部分が特に黒っぽくなる(h)。フロキシンで濃いピンク色に染まった(j)。組織はどの部分をとってもクランプがみられ、多くの担子器基部にもクランプが見られる(l)。 とりあえずチャナメツムタケとしておいたが、いくつか疑問点がある。保育社の図鑑ではチャナメツムタケにPholiota lubricaという学名を与え、クリソシスチジアがあると記している。スイスの図鑑(Vol.4 336p.)では、Pholiota lubricaにはクリソシスチジアはないと書かれている。原記載にあたれば、なぜこうなったのかのヒントは得られるだろう。 いずれの図鑑にも、シスチジア先端付近の分泌物については触れていない。肝心のきのこはほとんど食べてしまった。ここで検鏡したサンプルは小さく干からびていたので、検鏡が済んだら捨ててしまった。変種ないし別種なのかもしれないが、もはや検証のすべはない。 |
|||||||||||||
|
|||||||
先日歩いた日本海側の砂浜では、広い範囲に多数のスナヤマチャワンタケをみることができた。晩秋から初冬にかけての頃に、海岸砂地に発生する。防風林の外側、イネ科植物の叢生する砂地に出る場合が多いが、水際に近いほとんど植生の見られない場所にも出る。スナジクズタケも似たような環境に出るきのこのひとつだ。 ここでは、植生のほとんどない砂地部分に多数でた個体の姿を並べてみた(a〜f)。大きなものでは径12cmにも及ぶが、多くは径3〜6cmほどである。まだ頭部の孔が1〜2mmほどしか開いていない幼菌は、遠目にはホコリタケの仲間の腹菌類と間違えそうだ。 これまで中部地方から東北地方の海岸砂浜はほとんど歩いてみたが、晩秋から初冬に歩いた地域では、ほとんどの浜でスナヤマチャワンタケが見られた。秋田、青森、岩手、宮城では、まだこの時期に砂浜を歩いていない。したがって、いまのところまだ見ていない。 これまで、日本海側では富山県、太平洋側では愛知県までしか見つかっていない。石川県以西、三重県以西ではこれまで報告例はない。また、北海道からも同じく報告例はない。しかし、これらの地域でも発生しているはずと考えている。時期は今頃だろう。 |
|||||||
|
|||||||
新潟の海浜防風林の松林で採ったシモコシはほとんど食べてしまったが、傘部分を1cm平方ほど切り出して残しておいた。その部分から胞子紋をとったのだが、ほんの少ししか落ちなかった。従って胞子も少量しか見られなかった(a)。 しかしヒダ切片はきちんと切り出すことができた(b)。シスチジアの類は全くない。ひだ実質は並列型(c)。実質と子実層には黄色い色素を帯びた組織が多数みられる(d)。菌糸にはクランプはなく、担子器の基部にもクランプはない(e)。傘上表皮は細長い菌糸が平行気味に走っていて、緑色の色素を帯びた菌糸と入り乱れている(f)。 キシメジ属は顕微鏡を頼っても同定には結びつきにくい。胞子は小さいし、シスチジアや傘上表皮は単純で似通ったものが多い。要するに、みな同じようでつまらない。おまけに、シモコシ、マツタケといった優秀な食菌となると、きのこ狩りの対象にこそなれ、検鏡・標本作りなどには回ってこない。だから、正確な同定作業などは滅多にやらないことになる。 |
|||||||
|
|||||||
新潟県寺泊町から山形県北部の遊佐町にいたる海岸線を歩いてきた。結果としては、主目的のきのことの出会いは全くなかった。砂浜で出会ったのはスナヤマチャワンタケとスナジクズタケ、ザラミノシメジ属、糞生菌のチャワンタケのみであった。スナヤマチャワンタケは最盛期らしく、どこの浜でも多数みることができた。最北端は、山形・秋田の県境近くである。 砂浜に出る途中の松林では多くのきのこが見られた。今朝はそのうちマツボックリから発生するきのこ三種類を取り上げた。ニセマツカサシメジ(a, b)、マツカサキノコモドキ(c, d)、マツカサタケ(e, f)である。これらは、海辺でなくとも、松林の地表によくみられるものであるが、海岸のクロマツ防風林では特にポピュラーなきのこだ。 クロマツ林ではシモコシ、ハツタケ、アカハツ、ナラタケなどがよく見られた。久しぶりに採ったシモコシは、短時間でかなりの量となったので、早速食料に回すことにした。 |
|||||||
|
||||||||||
日本菌学会関東支部の第20回シンポジウムが、12月10日(土) 13:00-17:20 に東京農業大学で行われる。今回のテーマは「快適な生活のための菌学」。案内文の一部を抜粋すると、...... 日本菌学会関東支部は、親学会と同様に菌を材料とした応用・基礎の様々な学問分野の方の研究発表・交流の場です。そして、主要な会員である企業関係者・アマチュア・アカデミア(大学・研究機関など)という3つの、時として指向の異なる人たちが一同に会し、議論を戦わせ、時に異分野の人たちをも招待して講演を行うのは、まさに関東支部のシンポジウムならではのことでしょう。そこで、今回は20回を記念して、この3つの分野の方すべてから演題を頂戴し、「私たちの生活と菌類の接点」をテーマとするシンポジウムとしました。菌類は利であれ害であれ、多かれ少なかれ、私たちの生活と接しています。そこで、私たちの生活が楽しく、快適であるために、菌とはどのように接しているか、という点に注目したシンポジウムを行います。「食べて生活を楽しく:きのこの研究・開発」「きのことつきあって生活を楽しく」「もやしもんとは」「呑んで生活を楽しく:酒」「飲んで生活を楽しく:薬」など、興味深い演題が並んでいる。 ちなみに日本菌学会関東支部の会員でなくても参加できる。こういったシンポジウムというもの、えてして講演後の懇親会(17:20-19:30)で本音や裏話を聞けることが多い。
今日から明日にかけて、山形県の海浜を歩いてくるので、明日の雑記はお休みとなる。 |
||||||||||
|
|||||||||||||
千葉県房総半島の浜を回ってきた。内房富津市の浜では、数は少ないがナガエノホコリタケ(a)、Tulostoma kotlabaeらしきもの(b)が発生していた。両者ともに、先月7日には全く発生していなかった(雑記2005年10月8日)。 外房蓮沼村では、南浜でウネミケシボウズタケが最盛期を迎えていた(c〜f)。先月7日には地中に幼菌が多数みられたところである。砂地を掘ると太くて白い柄をもった若い個体が次々に出てきた(d)。まだ頭部は外皮ですっかり被われている。典型的な頭部をもった個体(e)が見られる一方では、発生から4週間足らずで既にコケに被われているものすらあった(f)。 先月7日には何も発生していなかった蓮沼村中下海岸では、ナガエノホコリタケ(g〜i)、ウネミケシボウズタケが多数発生していた。ざっと数えて100個体以上は楽にみつかった。掘り出した幼菌は、頭部から柄の基部まで、全体が菌糸に被われている(i)。 九十九里浜北部の野栄町では、ウネミケシボウズタケが発生していたが数は少なかった。今年の異常気象を反映してか、まだほとんどスナヤマチャワンタケが見られない。ごくわずかにまだ頭部の口が開いたばかりの小さな個体がみつかった(j)。 砂浜の水際からわずかしか離れていない位置に打ち上げられた流木から、多数のヒラタケが発生していた(k)。影になっている部分には新鮮で質のよいヒラタケが多数でていた(l)。 |
|||||||||||||
|
||
2005年10月6日の雑記で、福島県で出会った小さなきのこを取り上げた。ボロボロに腐朽した材からでていて、傘に粘性があるきのこだった。深い色を帯びた幼菌、若い菌、成菌と揃っており、あまりにも印象的な色だったので、ついつい撮影して持ち帰ってきた。これまでの自分の知識の範囲にはないきのこだった。 このきのこ、上からちょっと見下ろすとウラベニガサ属のきのこにもみえる。でも、傘裏をみるとヒダが離生ではないので、別の属だろうと見当がつく。ヒダを見るにはひっこ抜くまでもない。化粧用の小さな鏡をあてればよい。では、クヌギタケ属かというと、胞子紋が白色ではないから違うと分かる。胞子紋の色を確認するには、持ち帰らずとも、一晩紙に採取せずとも、発生場所の付近をよくみると、周辺に胞子紋がみられることが多い。 きのこの素性を探るのに、何冊もの図鑑と手当たり次第に比較するのも悪くない。いくつかの図鑑の写真には、これと近い姿のきのこが掲載されているかもしれない。しょっちゅうこういう作業を繰り返していると、図鑑のどの辺にどんなきのこが掲載されているのかだいたい分かるようになる。そうなると、最初からその近辺だけをみればよい。国内の代表的な図鑑5〜6冊を切り張りして自分専用図鑑を作ってしまった人もいる。 しかし、じっくり観察して、データを書き出してから検索表にあたると、たいていは「絵合わせ」探索をするよりも楽に属レベルまでたどり着ける。保育社「原色日本新菌類図鑑」p20〜23にある (ハラタケ目の科の検索表) を忠実にたどると、このきのこはオキナタケ科にたどり着く。つぎに、p181にあるオキナタケ科の検索表をたどると、オキナタケ属とコガサタケ属が残る。そこで、両者の説明を読むと、オキナタケ属にたどりつく。 オキナタケ属にたどり着いたら、市販の図鑑や論文にあたればよい。国内の図鑑にあたる場合でも、海外の図鑑にあたる場合でも、オキナタケ属だけをみていけばよいから、網羅的に「絵合わせ」をするよりもずっと楽だ。海外の情報も利用したければ、例えば、スイスの菌類図鑑Vol.6末尾の検索表で大まかな見当を付けて、該当巻Vol.4の検索表に進めばよい。より詳しくは、その巻末の参照文献をあたることになる。 ただ、いずれの検索表にあたるにも、不可欠の道具がある。顕微鏡だ。きのこ関係の検索表をみると、まず例外なく顕微鏡による観察データが不可欠だ。小さな胞子表面の模様などは1,000倍で観察する必要があるけれど、大部分の検鏡データは400倍で得られる。だから、中学校などにある単眼の学習用顕微鏡で大方は用が足りる。これは安く購入できるし、他の遊びにも使える。保育社の図鑑をもっているのならば、是非とも顕微鏡を備えよう。 きのこを調べるのに使う図鑑も、ある程度「枯れた」定評のあるものを使うのがよいだろう。発生環境別とか季節別、さらには傘の色別、等々を基準にきのこを並べた図鑑もある。きのこ狩りだけが目的ならそれもよい。でも、さらに一歩踏み込もうと思えば、広く指示されてきた分類基準に準拠して配列された図鑑を使うのがよい。となると、選択範囲は自ずと決まってくる。その基本が保育社『原色新日本菌類図鑑』なのだと思う。 |
||
|
|||||||
久しぶりに早朝、さいたま市見沼区の公園まで行ってみた。早朝、湯気を立てている新しいウッドチップにはヒトヨタケ科のきのこが溢れていた(a)。近づいてみると少なくとも5〜6種類はあることがわかる(b〜f)。ウシグソヒトヨタケ、ワタヒトヨタケ、クズヒトヨタケ、ネナガノヒトヨタケなどがあるように思えるが、これらは一切持ち帰らなかったので正確な種名はわからない。 少し古くなったウッドチップからは、キコガサタケやオニタケ、フミヅキタケ属、ハラタケ属の菌が出ていたが、あまり状態がよくないので撮影はしなかった。さらに古いウッドチップではキツネノタイマツ、ツマミタケなどの腹菌類が目立った。ふだんならたいていハタケチャダイゴケが見られるのだが、不思議と出会わなかった。 |
|||||||
|
|||||||||||||
先月28日に栃木県栗山村で採取したシロノハイイロシメジを検鏡した。胞子写真は、採取した日の夜にとった胞子紋からのもの(a)。いわゆるドライマウント(水などの封入液を使わない)状態でみたものが形をすなおに表現している(b)。 持ち帰ったきのこはまだ冷蔵庫の野菜籠に保存してあったので、採取時に近い姿を保っていた。ヒダの切り出しは楽だった(c)。先端にも側にもシスチジアは見られない(d)。念のために、子実層を中心とした周囲だけをフロキシンで染めてみた(e, f)。やはりシスチジアはない。 ヒダ実質は並列型(g)。実質の菌糸にはクランプがある(h)。傘肉や傘表皮、柄の組織にもクランプを見ることができる。傘表皮は細い菌糸が平行に走っている(i, j)。担子器の基部には、クランプを持ったものが多い(k, l)。中には、基部にクランプのない担子器も見られる。 |
|||||||||||||
|