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間違いようのない食用きのこの多くは、検鏡はしても、結果を撮影することはまずなく、すぐに調理に回してしまう。このため、代表的な食菌については、胞子などの顕微鏡写真はほとんどデータとして残っていない。こういったきのこが50種ほどある。ムキタケもそのひとつだ(a, b)。 28日に採取してきたムキタケのうちから数個を、そのまま袋に入れて残しておいた。珍しく胞子紋もとっておいた。今朝はそのムキタケを覗いてみた。胞子は小さなソーセージ型で弱いアミロイド(c)。ヒダ切片の先端をみると、多数のシスチジアが見える(d, e)。先端に細い突起を持ったものが多い。それに対して側シスチジアは単純な紡錘形をしたものが多い(f, h)。 ヒダ実質は並列型(g)で、高い頻度でクランプが見られる(i)。胞子ばかりではなく、担子器も小さく、基部にはクランプがある(j)。ムキタケの表皮はいとも簡単に剥けるが、この部分を覗いてみた(k)。クランプをもった細長い菌糸が、絡み合いながら立ち上がり気味に走っている(l)。 |
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平成17年度の「菌類の多様性と分類」講座(菌学教育研究会)の日程が発表された。講座は12月16(金)〜19(月)の4日間、筑波市にある菌学教育研究会のセンターで行われる。注目すべきは、12月18日(日) am10:00〜12:30に行われる池田良幸氏による講演である。タイトルは 「『北陸のきのこ図鑑』の完成するまで」となっている。 『石川のきのこ図鑑』絶版を契機に、復刊への要望が全国から著者に寄せられたという。そして数年の歳月を経て、全面改定新版として今年刊行されたのが『北陸のきのこ図鑑』であった。この間にはきっと多くの苦労や葛藤があったことだろう。 著者の口から直接、図鑑出版までの経緯・裏話などを聞ける機会というのは、そう滅多に得られるものではない。このチャンスを逃せばきっと後悔することだろう。講座への参加には事前申込が必要である。申込締切は12月5日(必着)となっている。講座の全日程と概略はお知らせにも載せたが、詳細は下記へ照会されたい。
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紅葉狩りに行って来た。栃木県日光から栗山村川俣へ車を走らせた。気温が高すぎたので期待していなかったのだが、紅葉は予測していたより美しかった。 山王林道に入ってすぐに、コガネタケにであった(i, j)。林道脇の足場の悪い急斜面に出ていた。栗山村に入ると、どこに行ってもムキタケが大発生していた(a)。若いムキタケの柄には毛が生えていてとても興味深い(b)。次に多かったのはクリタケ(c, d)とチャナメツムタケ(e)だった。この2種類のきのこに関しては、採り放題に出ていた。あまり採取したつもりはなかったが、帰宅してみるとかなりの量があった。一部をきのこ鍋で食べたが、大部分は乾燥保存に回った。 川俣では実に久しぶりにシロノハイイロシメジに出会った(f〜h)。このきのこはとても大きい上に、非常にもろい。ちょっとした振動を与えただけでもすぐに壊れてしまう。 |
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先週土曜日に新潟県のスギ植林地で採取したスギエダタケを検鏡した。この仲間、つまりマツカサキノコ属 Strobilurus は、胞子にはこれといった特徴はないが、独特のシスチジアを持っていて興味深い。マツカサキノコやマツカサキノコモドキでも同様である。 カバーグラスに落とした落下胞子をそのまま見た(a)。ヒダを切り出してみると、実質部はやや並列気味に錯綜している(b)。ヒダの先端には、やや厚膜の縁シスチジアがある(c, d)。側にも同じような形の側シスチジアがみられる(e, f)。側の方が縁よりも若干大きめである。 担子器は細長く、基部にクランプはない(g)。傘表皮はとても興味深い(h)。上表皮層は子実層状だが(i)、細長い棒の先に球をつけたようなシスチジアが多数ある(h〜j)。傘シスチジアの中には基部がカブのように膨らんだものもみられる(j)。 先端に向かって細くなる棒の頭に球を乗せたような形のシスチジアは、柄の表皮にも多数ある(k, l)。マツカサキノコ属では、アセタケ属などと同じく、胞子・ヒダ・傘表皮以外にも柄の表皮の観察が必須である。傘・柄のシスチジアは大きさのバラツキがとても大きい。 |
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新潟県寺泊の松林下の砂地で妙な塊にであった(a)。遠目にはホコリタケの仲間のように見えた。近づいてみると、ヒポミケス菌におかされたベニタケ科のきのこにもみえた。全体が白っぽい粉に被われている。触ってみると弾力性がある。 掘り出してみた(b)。意外にも固い柄のようなものがついている。地表部を割ってみた(c)。きのこと思えばきのこにみえるが、植物にも見える。ナイフで二つに切ってみた(d)。これを見てはじめて、どうやらヒダナシタケ科の幼菌らしいことに思い及んだ。丸い形をして地表に曝されているのは子実層の部分らしい。となると、白っぽい粉は胞子かもしれない。 比較的大きな塊から一部を切り出して顕微鏡で覗いてみた。2菌糸型のヒダナシタケ科のきのこに間違いない(e)。クランプを持った原菌糸と骨格菌糸らしきものがよくわかる(e)。最も大きな個体の表面近くから微量の組織を切りだして覗いてみた(f)。どうやら胞子らしきものが多数見える。ヒダナシタケについては全く知識がないのでこれ以上の探索は止めた。 |
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10月21日の雑記で取り上げた白いナミハタケ属菌について、菌懇会顧問の井口 潔氏から示唆を得たので、今朝乾燥標本(a, b)をあらためて調べてみた。あらためて乾燥品を眺めてみると、まさにヒダナシタケの仲間(硬質菌)を連想させられる(a)。採取時から見ると随分小さくなった。 今朝再確認したのは、主に乾燥標本のヒダ(c)の縁である。よく見るとシスチジアといえば言えるような組織の突出はある(d〜f)。しかし、これはひだ実質部に多数含まれている油脂を多量に含んだ菌糸(g)の先端が、ヒダの縁に突出しているだけとも言いうる(h)。 先日の雑記では写真を載せなかったが、生状態の時、ヒダ先端(i)には、上記の菌糸先端が多数突出している(j)。これをシスチジアとみなせば、薄膜棒状の縁シスチジアがある、ということになる。なお、写真のピンク色はフロキシン、黄橙色はメルツァー液を加えたものである。 井口氏の示唆によれば次の2点が検討課題ということになる。 (1)青木実氏新称の「シロナミハタケ」(日本きのこ図版No.847)としてよいのではあるまいか。 (2)シロナミハタケは Lentinellus vulpinus (Sowerby) Kuehner & Maire f. auricula ではないか。 青木図版にあたってみると、冒頭に「一見したところヒダナシタケ目を思わせる全体白色のきのこである」との記述から始まる。さらに「ヒダの実質には多数の油管があり、油状物は管内で動いている」と記述されている。図版類と記載を読むと、先日の観察結果とほぼ符合する。 次に「きのこ雑記」のリンクページにも掲載してある Index Fungorum にあたってみた。 Record Details:に Lentinus auricula Fr., Ofvers. K. VetenskAkad. Forh.: 29 (1862) [1861] Current name:に Lentinellus vulpinus (Sowerby) Kuehner & Maire 1934 、とある。 両者はシノニムらしい。念のためにネット上で写真を探してみた。''Swedish Fungi (by Irene Andersson)'' に Lentinellus vulpinus f. auricula としてやや似ている写真があった。これらのデータに基づいて原記載にあたれば、さらに詳細に知ることができそうだ。 |
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10月22日の雑記でとりあげたアセタケ属を調べてみた。柄は上下同大で下方でやや太くなるが基部に膨らみはない。胞子は平滑、楕円形で心持ちソラマメ形をしたものもある。 縁シスチジアは棍棒状から中央部がやや膨らんだ円柱状をしている(a, b)。側シスチジアは無く、ひだ実質は並列型(c)。大半の担子器基部にはクランプがある(d)。傘表皮はクランプのある細長い菌糸が平行に走っている(e)。柄上部の表皮には、所々にシスチジア様のものが束になっている(f)。なかには独立した柄シスチジアともいえる組織もみられる。 アセタケ属の同定は面倒だ。ヒダ実質や傘表皮はもちろん、柄の表皮まで細かくチェックしなくてはならない。その傘に関しては頂部、中間部、縁部を、柄についても頂部、中間部、下部と検鏡する部分が多い。それらの写真は省略してある。オオキヌハダトマヤタケのようだ。 |
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同じく、10月22日の雑記でとりあげたキツネノカラカサ属である。胞子はこの仲間によくあるエジプト壁画に描かれた人物の目のような形をしている。偽アミロイド(g)。ヒダ実質部は錯綜気味の並列型(h)。縁シスチジアはとても大きな円柱状(i, j)。側シスチジアは無く、担子器基部にはクランプがあったりなかったりである(k)。傘表皮は菌糸が平行に走っているが、ところどころで立ち上がっている(l)。いくつかの図鑑にあたってみたが、該当種は見つからなかった。 このきのこなどは、顕微鏡を使わないで同定する現場では、きっとキツネノカラカサとしてリストアップされてしまうのだろう。 |
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土日の2日間、新潟県の浜を歩くつもりで寺泊の浜で一晩を過ごした。砂浜では、スナジクズタケ、ハラタケ科のきのこ以外にはほとんどきのこを見ることはなかった。二日目は、雷雨を伴った強い風雨のために、海浜歩きを断念して、新潟県から群馬県の山の中を歩いてきた。 久しぶりにドクササコに出会った(a, b)。悲惨な中毒症状を引き起こすことで有名なきのこゆえ、毒性の検証はわずかの量を食べるだけでやめにした。発生していたコナラ林の近くにはスギ植林地が広がっていた。スギエダタケの白さが妙に際だっていた(c, d)。 群馬県の山の中では、ウスキブナノミタケ(e, f)や、ナメコ、ヒラタケ、ムキタケのきれいな群れにであった。長い柄と小さな傘を持ったウスキブナノミタケは何度撮影してもいまだに一度もまともな写真を撮れたことがない。今回もすべて失敗作となった。 |
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先日森林公園で出会ったキノコには、外見だけでは同定困難なものがあった。今朝はそのうちから4種類の胞子を眺めてみた。いずれもカバーグラスに採取した胞子紋を見た。 (A)はアセタケ属、(B)はキツネノカラカサ属、(C)、(D)はフミヅキタケ属。(c)は傘表面が強い粘性を帯びているが、老菌の姿は(d)とほとんど同じに見えるが、老菌でも傘表面の粘性は強い。一方、(d)は傘表皮に粘性はほとんどない。(a)はちょっとみたところ、オオキヌハダトマヤタケに、(b)はキツネノカラカサに、(c)、(d)はいずれもツチナメコに見えた。 (a)は明らかにオオキヌハダトマヤタケの可能性は高い。もしキヌハダニセトマヤタケなら胞子はこぶに被われている。また、(b)は明らかにキツネノカラカサではない。キツネノカラカサなら胞子は十字形ないしクサビ形をしている。胞子をみただけで「違う」と断定できる。 (c)と(d)は傘表皮の粘性の有無だけをみると別種のように思えるが、胞子からは差異は感じられない。雨でヌメリがすべて洗い流されたのかもしれない。同一種の可能性も否定できない。これはさらにヒダや傘表皮の構造をみないと何ともいえない。 胞子だけをいくら比較検討してみても、一般的には、それだけで種の同定はできない。ヒダと傘表皮などの検鏡が必要となる。しかし、胞子だけでわかることも多い。 今日は急遽これから新潟の海を歩いてくることになったので、明日の雑記はお休み。新潟泊。 |
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川越市の雑木林で妙なキノコにであった。カエデ類の立枯れの地表部付近からでていた。ヒラタケ型で束生し、基部で癒着している。白色でブナハリタケに似通ったよい香りがする。遠くからみたときは硬質菌のようにみえた(a)。柔らかくて裏面は細かいヒダである(b)。 かさ表面は放射状に著しい皺があり、比較的しっかりしていて、微毛もなく粘性はない。柄はほとんどなくヒダの縁は内側にやや巻き込んでいる。胞子紋は白色。 胞子は小さな球形で微疣に被われ(c)、アミロイドである(d)。ヒダ実質は並列型であり、シスチジアなどは見あたらない(e, f)。子実層には油脂を多量に含んだ菌糸(gloeohyphae)が多数みられる。フロキシンで染めて3%KOHでマウントするとよくわかる(g, h)。担子器の基部や偽担子器にはクランプがある(i)。傘上表皮はいわゆるトリコデルム(trichoderm)構造をなしてる(j)。二菌糸型(dimitic)で(k)、クランプが見られる(l)。 保育社『原色日本新菌類図鑑(I)』の検索表(p20〜23)をたどると、ミミナミハタケ属に落ちる。スイス菌類図鑑や手元の文献にあたっても、白色のミミナミハタケ属菌について触れているものはない。資料不足でこれ以上の探究はできなかった。 |
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