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この1週間、たった一度の秋ヶ瀬公園散策以外には、一切外出できなかった。気分は完全に浦島太郎である。少なくとも過去5〜6年間、こういうことは無かった。日頃の不養生のつけが回ってきたということか。手元に山積み状態のケシボウズの処理も全く進捗していない。かろうじてできたことといえば、海岸砂浜の生態学についていくつかの文献に目を通したことか。 少し遅れていたが、自然史洋書の佐野書店から2月の文献案内がでた。 |
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このところ、ひどいインフルエンザに捕まってしまい屋外に出られず、きのこ観察は全くできなかった。井口 潔氏についてのエピソードをもう一つ紹介しておこう。 顕微鏡観察といえば、薄い切片の作成が必須である。これが以外と難しい。薄片の作成にはいろいろな方法があるが、いずれにせよ一定の修練が必要とされる。あるとき、目の前で井口氏が作ったプレパラートを覗くと、胞子壁の構造が非常に鮮明に見える。それもそのはず、胞子が二つに切り裂かれ、子実層にはほとんど重なり合いが無かった。 誰が言ったのか「カミソリの魔術師」。氏に言わせれば、ちょっとした工夫とコツがあるという。切り出しのコツなどを文章で記述することは非常に難しいようだ。顕微鏡観察のコツなどを習得するには、出張講座を利用するとよいだろう。 |
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先日、菌懇会の長沢先生の講演では、Moncalvo等による分子系統樹を使って話を進められた。OHPで表示されるのは学名ばかりである。膨大な数のきのこの学名が列挙されている。演者が「え〜と、和名は」と言うや否や、すぐにその和名を提供する声があった。同様に、演者が和名を間違えると、直ちに正しい和名に修正する。 当初は、長沢先生もやりにくかったことだろう。しかし、途中からは「この和名は何でしたかね」と言いながら話を進めておられた。おかげで、聴衆の多くは講演内容がさらにわかりやすくなったことは言うまでもない。 話題の主は菌懇会の顧問も努めている井口 潔氏、通称「歩くきのこ図鑑」である。その井口 潔氏が KinokoLabo という名の事業を起こされた。氏のきのこに関する学識と経験を活用できる場が広がって欲しいと思う。まだホームページは工事中ということであるが、とりあえずURLを紹介しておこう。 |
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子嚢菌の場合には、組織をバラバラにしてその一部だけを取り出して観察したいということは少ないが、担子菌では組織をバラして確認したいことがしばしばある。担子器基部のクランプの有無、シスチジアのサイズ計測などなど。 先日採取したハンノキ樹下の菌核菌でバラシを試みた。組織を薄く切り出すところまでは、普通のプレパラート作成と何ら変わらない。水ではなく、3〜5%のKOHでマウントする。カバーグラスをのせた段階で既に組織が崩れだした(a)。子実層の下側に付いていた托外皮が反対側にずれている。子実層と托髄層も分離してしまった(b)。 この後、カバーグラスに軽く圧を加えると、子実層はバラバラになる。子嚢の全貌を観察することもできる(c)。力を加えすぎると(d)のように見えるはずが、(e)の様になってしまう。子嚢先端の孔はこわれ、胞子は潰れて押し出されている(e)。 なお、シスチジア先端の結晶構造などは、たいていがKOHで溶けてしまう。また、アルカリ系の試薬や染料を加える場合は、必ず十分な水洗いが必要だ。
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先日の講演会では、久しぶりに分子系統解析の話を聞いたので、昨年の今頃のことを思い出した。こういう場合に過去の記事を載せておくと便利だ。 ちょうど菌懇会ゼミ資料を作っていて、その中にTulostomaの系統樹を入れるために、自分で系統樹を作りはじめた(雑記2004.2.19)。Moncalvo J-M et al. 2002. One hundred and seventeen clades of euagaricsに目を通したのはその頃だ。 さらに3月の中頃になると、GenBankやDDBJなどからFASTAフォーマットのデータを入手して系統樹作りをしている(雑記2004.3.15〜3.20)。3月20日にはネットワーク上でサーバー側のClustalWなどを使うためにInforBIOも利用している。 これらの作業を行うにあたって、当時は統計学や文字列パターンマッチの勉強をしたはずだが、一年経った今、それらがほとんど身に付いていないことに気づいた。あらためて、Moncalvo J-M et al.の上記論文を再読したいと思うが、いまは手元に山のように積んであるTulostoma標本の処理である。 |
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久しぶりにさいたま市の秋ヶ瀬公園を歩いてみた。硬質菌、キクラゲ類、クロサイワイタケ科のきのこはあちこちの材に見られる。ウッドチップからは何も出ていない。ハンノキの落ち葉をどけてみるとキンカクキンがでてきた(a, b)。今年は1月はじめ頃からずっと発生が続いているが、撮影したのは今日が最初である。 切片を切ったのは何日ぶりだったろう。このところケシボウズの胞子・弾糸しか見ていないので、切片作りとは無縁だった。やはり薄く切ることはできない(c)。托外皮が円形菌組織であることを確認して、すぐにメルツァーで染めた(d)。子嚢先端の孔の壁が青く染まる。さらに子実層から子嚢をバラして全体を見た(e)。この後、再度洗って子嚢をみると、先端の孔の壁とそれに続く子嚢表面だけが青く染まるを確認できた(f)。 |
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20日の長沢先生による講演の中で、主に引用された文献は分子系統解析の著名な論文(PDF)である。最新の情報に注意していると、こういった論文の存在と内容を知ることができ、講演前に目を通すチャンスもできる。 インターネット環境を利用できるのであれば、NCBIのPubMed(a)を利用しない手はない。これは生物学者だけでなくアマチュア菌類愛好家にとっても、最も有用なウェブ情報源の一つである。ここには何千もの専門雑誌がインデックス化されているので、菌類関係でも最新の情報を知りたければ、これを利用するのが最も手っ取り早い。 日頃から主要論文のabstractを眺めておくと役に立つ(b, c)。その上で読みたいものを入手すればよい。一般に専門誌の表示には略記法が使われる。例えば、"Mol Phylogent. Evol." とあれば、"Molecular Phylogenetics and Evolution" のことである。正確な雑誌名が分からなければ、筆者名で検索すればよい。一般に本文は有償(d)だが、時にはMycoWebやDUKE MYCOLOGY(e)経由で、PDF(f)を無償入手できることもある。 [補足] ユニチカ(株)中央研究所の井ノ瀬利明さんから、有用な情報をいただいた。google scholarという検索サイトの存在である。PubMedと併用するとかなり効率的に有力情報が入手できる。ちなみにMoncalvoで検索すると、一発で上記の論文のPDFファイルにたどり着けた。井ノ瀬利明さんありがとうございました。 |
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昨日は東京豊島区立駒込社会教育会館で長沢栄史先生による「ハラタケ目の新しい分類体系」というテーマで講演があった(a)。菌懇会の総会に引き続いての講演会であるが、定員60名の部屋が一杯になるほどの盛況だった。参加者の顔ぶれをみると、北海道から九州にまでひろがっていた。 講演内容は主に、Molecular Phylogenetics and Evolution 23: 357-400.のMoncalvo J-M et al. 2002. One hundred and seventeen clades of euagarics.を素材に用い、近年の動向をアマチュアにも分かるように解説するものだった(b)。 Macintosh上のプログラムPAUPから生み出された分子系統樹には、当然ながら和名はない。論文の系統樹は小さな文字でビッシリ記述されているので、OHPで映し出される文字もなんとか読みとれる程度の大きさである(c, d)。 どうしようもなくおそってくる睡魔と戦いながら、多くの参加者の聞き逃すまいとする熱気を感じることができた。講演の後の懇親会も大勢の参加者があり楽しい時を過ごすことができた。論文そのものはあらためて目を通しておく必要がありそうだ。 |
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