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先に紹介したが、12月10日(土) に行われる日本菌学会関東支部の第20回シンポジウムの申込締切が近づいたので、再度取り上げた。会場は東京農業大学世田谷キャンパス。今回のテーマは「快適な生活のための菌学」。会員でなくても参加できる。申込先は下記。 演題には、「食べて生活を楽しく:きのこの研究・開発」「きのことつきあって生活を楽しく」「もやしもんとは」「呑んで生活を楽しく:酒」「飲んで生活を楽しく:薬」などが並んでいる。 本シンポジウムでは、講演に伴い、福岡久雄「きのこアラカルト」、杉山純多他編「菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統」(バイオディバーシティシリーズ4)、石川雅之「もやしもん」(第1巻、第2巻) など、関連書籍の販売(一部特価販売)もされる。
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上川キノコの会が来年は満20周年を迎えるという。昨年1月に第21号、今年1月に第22号と毎年、年初に会報「大雪」を出してきた(b)。来年の会報は20周年記念号として、会員外から広く原稿を寄せてもらうことにしたのだという。 夏から秋に、会長の佐藤清吉氏から原稿依頼の葉書が発信された(a)。各地のきのこの会事務局、佐藤清吉氏ゆかりの研究者・アマチュア・菌友らに届けられた。会報「大雪」を発刊し続けてこられたのは、ひとえに全国のこういった人々の支援があったからだという。 佐藤清吉氏に世話になった研究者・アマチュアは数知れない。佐藤氏から原稿依頼を受けた方は、是非とも寄稿していただきたい。電子データならば年末になっても何とかなろうが、手書き原稿は是非とも12月前半には郵送して欲しいと思う。 会報の発行は、小さな会にとっては経済的負担が深刻な問題となる。特に今回のような記念事業では、会報の印刷・製本・発送に要する経費は、会の数年分の予算をはるかに越えることだろう。せめて、呑み代を控えてでも、その分「大雪」に寄付したいと思っている。 まだ深夜だが、今日はこれから出かけて、日の出から日没まで遠州灘の浜を観察だ。 |
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9月22日に埼玉県三芳町で採集したチチタケはその日の内に乾燥機にかけた。一般に乾燥標本にすると、生の姿とはかなり変わる。でも、チチタケは乾燥標本からも生の状態を想像できる程度の変化しかない。今朝はその乾燥品からミクロの姿を観察してみた。 胞子だけはスライドグラスにとった胞子紋を使った。まず最初にドライマウントでみた(a, b)。次に、水でマウント(c, d)。最後にメルツァーで染めてみた(e, f)。それぞれ、表面に合焦(a, c, e)、輪郭部に合焦(b, d, f)したものを並べた。メルツァーは突起部を実に鮮やかに染色する。 乾燥標本は切り出しが実に楽である。最初にヒダを一枚指先で摘んで、カミソリで直接表面を削いだ。多数の厚膜シスチジアが見られる(g)。フロキシンで染めてヒダ先端部を見ると、実に多くの縁シスチジアがあることがわかる(h)。傘表皮にも大きさはやや小振りだが同じような形の傘シスチジアがみられる(i)。縁シスチジアをひとつ拡大してみた(j)。担子器を基部まで分かるように撮影したが(k)、中にはとても長い担子柄をもったものもある(l)。 美しい胞子模様、ヒダや傘表皮の興味深いシスチジア。チチタケは、そのまま調理して食べてしまうには、あまりにも惜しいきのこである。なお、生状態からの切片などは雑記2005.7.4で取り上げている。切片切り出しは難しいが、生状態で観察した時の方が情報量が多い。 | |||||||||||||
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海浜のクロマツ防風林近くでとても大きなクギタケに出会った(a, b)。傘の径が10cm以上、柄の長さは25cm以上あった。生態写真は撮らなかった。クギタケ属には面白い特徴がいろいろあるので、持ち帰って冷蔵庫に放り込んでおいた。 まず、傘肉、柄内部、ヒダ実質などにメルツァー液をたらすと青変する(c)。顕微鏡で見ると、組織がよく染まっている(d)。ヒダを切り出して(e)、これにメルツァー液を加えると、実質部の一部が青変する(f)。一方、シスチジア(g)はメルツァー液で内容物が黄褐色に変色する(g)。 胞子はとても大きくて(i)、メルツァー液を加えると赤褐色になる(j)。偽アミロイドということだろうか。側シスチジアはとても大きくて、ごく低倍率のレンズでも十分に判別できる(k)。担子器もとても大きく、簡単にバラすことができる(l)。基部にクランプはない。 クギタケは顕微鏡による菌類観察の教材として、シロフクロタケと並んで初心者にはとても取っつきやすいキノコだ。シロフクロタケに比較すると、ヒダ薄片の切り出しがやや難しいが、組織を構成するパーツが大きい上に、担子器などは、KOHで簡単にバラバラになる。 |
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ケシボウズの仲間は乾燥でいったいどの程度縮むんだろうか。ウネミケシボウズタケ(a, b)とナガエノホコリタケ(c, d)を使った。いずれもまだ柄の短い若い菌である。夜から早朝まで、摂氏40度に設定して、ざっと6時間ほど温風乾燥をしてみた。夏の海浜の数日分の熱量だろうか。 両者ともに柄が細くなり、表面に縦の皺が入り、ほぼ中実だった柄の内部が中空になった。頭部については、やや縮まった程度で、大きな変化は起こらなかった。この写真の他にも10数個の個体で同じことをやってみたのだが、結果はいずれも同一の傾向を示している。 毎月一定の地域(主に千葉県の海)の定点観察をしているのだが、まるで半年ほど前に出たのではないかと思えるほど風化している個体にしばしば出会う。発生個体があるのにそれを見落としていたのだろう、と当初は思っていたが、どうもそうではないらしい。気象条件にも依るのだろうが、風化の進行は思いのほか速いようだ。 |
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ひたち海浜公園の松林下の砂地からきれいなニガクリタケが出ていた(a, b)。ニガクリタケは一年中みられ、いつでも撮影したり観察できる。だからだろうか、案外まともな写真もなければ、きちんとミクロの姿を観察する機会もあまりない。 そこで今朝はこのニガクリタケを観察してみた。胞子紋は暗紫褐色(c)。カバーグラスに採った胞子紋をそのままみた(d)。水を加えるとピントが鮮明になった(e)。やや厚壁の胞子には発芽孔がみられる。水を3%KOHで置き換えると色が黄褐色になった(f)。 ニガクリタケのヒダは非常に脆くて小さいので、ヒダの薄切りは案外むつかしい(g)。KOHでマウントするとカバーグラスの重みでたちまちペチャンコになってしまう。ヒダ実質は並列型で、色素が細胞壁に沈着している(h)。実質部、傘肉、傘表皮のどこにでもクランプが見られる。 縁シスチジアは偽担子器のような形で、担子器よりやや大きめ(i)、側シスチジアはクリソシスチジアで先端に突起をもっている(j)。担子器の基部にはクランプを持ったものが多い(k)。 担子器の基部は組織をバラしたり、染色しないでもわかるが、サイズを計測したり、クランプの有無を確認するには、KOHとフロキシンを用いてバラバラにしたほうがわかりやすい。 傘上表皮は平行菌糸被、クランプを持った細長い菌糸が平行気味に走っている(l)。そのすぐ下には色素を多数沈着した偽柔組織が見られる。ニガクリタケを観察したのは実に久しぶりだった(雑記2004.3.31、同2003.3.6、同2003.3.3)。 |
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ひたち海浜公園の砂丘部を歩いてきた。ここでもスナヤマチャワンタケは最盛期らしく、いたるところに出ていた(a, b)。例年に比較するとハチスタケの発生が非常に悪い。さんざん探したあげくようやく数ヶ所でやっとのことで見つかった(c, d)。 ウサギの糞から発生するチャダイゴケに出会った(e, f)。付近の砂地や材からも出ている。ひたち海浜公園でコナガエノアカカゴタケに出会ったのは久しぶりだ。といっても、乾燥標本のような状態になって転がっていたものだ(g, h)。現地ではすっかり乾燥して臭いにおいはあまり感じなかったのだが、自宅に戻ってみると凄まじい異臭を放っていた。 Hygrocybeの仲間が砂丘部にでていた(i, j)。ヒダは疎で離生、変色性なし。どうやらトガリベニヤマタケやトガリツキミタケなどに近い種のようだ。ケシボウズの仲間では、ウネミケシボウズタケ(k)、ナガエノホコリタケ(l)が新しい個体を発生させていたが、数は少なかった。 |
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この2日間に見たマツカサキノコモドキ(雑記2005.11.11)とニセマツカサシメジ(同11.12)は、同じ松毬から混生して出ていることもあり、外見だけではわかりにくいことが多い。 図鑑などでは、この両者は外見的特徴から簡単に区別できるかに書いてある。傘の色と形、ヒダの密度、柄の色と基部の状態をよく観察すれば、両者の差異は明らかであるとされる。 多くの個体を観察してみると、現実はそう甘くない。外見だけでは判断できないケースに頻繁にであう。そこで、以下にこの両者について、表形式で整理してみた。 顕微鏡的特徴のうち、赤字で記した部分を調べれば「いずれかでない」ことは一目瞭然である。「××である」と言い切るにはさらに詳細な観察が必要である。 顕微鏡を使うのならば、縁シスチジアを見るのが最も簡単だ。ヒダを一枚つまんでスライドグラスに寝かせてそれを見るだけでよい。 胞子のアミロイド反応やクランプの有無を見るためには、油浸100倍の対物レンズを使わないとわからない。傘上表皮の観察であれば、低倍率の顕微鏡で十分である。しかし、傘表皮の切り出しはそう簡単ではない。マツカサキノコモドキの傘表皮はよほど上手く切り出さないと、まるで円形菌組織か偽柔組織のように見えてしまう。洋梨形子実層状被タイプの傘上表皮は、押し潰さないよう注意して、かなり薄い切片を作る必要がある。
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昨日に引き続いて、山形県遊佐町で採取したニセマツカサシメジ(a〜c)を検鏡した。胞子はマツカサキノコモドキのそれとよく似ている(e)。アミロイド(f)であるが、胞子の外側の膜だけがわずかに青く染まるだけなので、わかりにくい。縁シスチジアは薄膜で棍棒状をしている(g, h)。傘上表皮は平行菌糸被(i)で、細長い菌糸が絡み合った状態で所々に立ち上がり、傘シスチジアの様な体裁をなしている(j)。柄上部の表皮にも同じく、柄シスチジアとも言える菌糸の束が多数見える(k)。これが、粉状に見える実体なのだろうか。多くの担子器では基部にクランプを持つ(l)。子実体のどの部分をとっても、クランプを持っている。 今回は採取しなかったが、すぐ近くにニセマツカサシメジとマツカサキノコモドキが発生していた。掘ってみるとそれぞれが隣接した松毬からでていた。時に同一の松毬から両者が混生していたり、マツカサタケが一緒にでていることもある。 「北陸のきのこ図鑑」の「正誤表」(2005年10月20日現在)配布が開始された。きのこの会経由で本書を購入した人には、会あてに正誤表が員数分届いているはずである。そうでない方は著者に正誤表の送付を依頼すれば、直接送付されるだろう。 |
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先日山形県遊佐町の海浜黒松林で採取したマツカサキノコモドキ(a〜c)を検鏡した。胞子(e)はメルツァー液を加えると、内容物が緑色っぽく見え、やや小さめになった。非アミロイド(f)。縁シスチジア、側シスチジアは共に便腹型で先端に分泌物を多量に付けている(g, h)。傘上表皮は洋梨形の子実層状被をなし(i)、細長く先端が丸くなった傘シスチジアがある(j)。柄の表皮にも傘シスチジアと似た形のシスチジアが見られる(k)。担子器の基部にはクランプはない(l)。なお、ヒダ実質、傘表皮、傘肉、柄の内部、その他の部分にもクランプは見られない。 外見だけではとてもよく似たきのこにニセマツカサシメジがある。両者はしばしば、同じひとつの松毬から仲良く発生していることも多い。両者についての比較や、マツカサキノコモドキについては過去の雑記でも何度か取り上げている(雑記2002.12.19、同2003.3.11、同2004.12.11)。 なお、雑記2005.10.28で取り上げたスギエダタケと同じ仲間であるが、スギエダタケのほど鮮やかな姿の傘シスチジアや柄シスチジアは見られなかった。 お知らせにも掲載したが、興味深いシンポジウムが、12月2日(金)に国立科学博物館新宿分館で行われる。第8回国際シンポジウム「アジア及び環太平洋地域における自然史標本収集・管理と自然史研究」である。詳細は、科博のサイトに記されている。 科博の細矢 剛博士による「日本における菌類インベントリーとデータベース化の歴史と現状」では、科博の標本庫の現状とGBIFについて話を聞くことができそうだ。 |
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