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傘と柄をもったきのこのヒダ実質をみるのが目的であれば、無理して薄い切片を作らなくても、適度の厚さの切片で十分だ。生のシロフクロタケを使ってやってみた。ヒダを指先でつまんで、ピスやミクロトームなど使わず、そのままカミソリをあててヒダを切り出した。柔らかく頼りないので、切り出した切片はとても厚い。しかし、この切片でも、たいていは何とでもなる。 切片が厚ぼったいので、カバーグラスを載せると斜めに傾いた。スポイトでさらに水を加えると、カバーグラスが水平に浮いた。水滴上に薄いカバーグラスが載っている状態なので、スライドグラスを乱暴に動かすと、カバーグラスは水と一緒に落ちてしまう。しかし、こうするとかなり厚くてもヒダを観察できる(a)。ヒダ切片が寝てしまったら、柄付き針を2本使って、慎重に切片を起こしてからカバーグラスを載せる。ポイントはたっぷり溢れるほどの封入水だ。 この後の切片作りはで、すべて注射器ベースの簡易ミクロトームを使った。さらに、ピスには食用の麩を丸くくりぬいたものを使った。さすがにピスと簡易ミクロトームを使うと、手持ち直接切り出しと比較して、圧倒的に薄切りができる(b)。ただ、薄くは切れても、ピスに挟み込むときうかつに掴むと、潰れがちになる(c)。それでも、ペチャンコにならなければ、観察は可能だ。 傘表皮を観察するのであれば、乾燥標本から切り出すのが最も簡単だ。生標本で観察しようと思ったら、ピスなどを使ってなるべく薄く切る必要がある。さらに、白色や透明な組織の場合は、フロキシンなどを加えないと見にくいことが多い(d, e)。 シスチジアや担子器のサイズ、基部のクランプの有無などを確認するのが目的であれば、ヒダの薄切りは全く不要だ。ヒダの一部をピンセットなどでつまんでスライドグラスにのせる。そこに染色剤と3〜5%ほどのKOHを滴下して、カバーグラスを載せる。 ここからは、もっぱら押し潰し観察の世界となる。組織をペシャンコにすることなく、ずらしながら軽く圧を加えていくと、そしきがバラバラになる。つまり、ポイントは、水を使わないでKOHを使うこと、さらにカバーグラスを左右にずらしながら軽く押し潰すこととなる(f)。 |
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手持ちの生きのこがまだ2つ残っていた。先日さいたま市で採取したシロフクロタケ(a)とタマキクラゲ(d)だ。埼玉県南部では、冬場でもかなり高い頻度でシロフクロタケが採集できる。このきのこは、大形で組織が比較的しっかりしているので、プレパラート作成練習にはとても都合がよい。一方、タマキクラゲは関東地方では今の時期広範囲に見ることができる。ともに、過去に何度も検鏡しているきのこだが、なんど見てもミクロの姿は楽しい。今朝は、胞子を見ているうちに、時間がなくなってしまった。 シロフクロタケ:(b)は水で封入、(c)は3%KOHで封入。タマキクラゲ:(e)は水封、(f)はそこにフロキシンを加えたもの。 |
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一昨日、さいたま市の公園で採取したきのこを検鏡してみた。ヒダは上生から直生で胞子紋は黒色〜暗紫褐色(a)。胞子は平滑で発芽孔をもち(b)、濃硫酸(b)でもKOH(d)でも、色の変化はあまりない。この時点でナヨタケ属やヒメシバフタケ属の可能性はなくなった。 草の生えたウッドチップベースの地表から発生していた。古くなっても傘が溶けることはない。傘表皮には粘性は全くなく、湿ると条線がはっきりする。乾燥すると全体に白っぽくなり条線も不明瞭となる。柄は中空で青変性は全くない。 久しぶりにヒダ(e)や傘表皮(i)を切り出した。子実層托実質は錯綜型(f)、ヒダには多数の側シスチジアがある(g, h)。縁シスチジアもほぼ同じような形をしていて、いずれも薄膜である(j)。したがって、アイゾメヒカゲタケ属の可能性も低い。傘上表皮は球形の細胞が柵状に並んでいる。担子器の基部にはクランプをもったものは少ない(k)。菌糸にはクランプがある(l)。 KOHやアンモニアなどのアルカリで封入しても、シスチジアの内容物が黄金色になることはない。昨日の雑記で「ジンガサタケ属?」としたが、保育社の図鑑の検索表では、ジンガサタケ属にも落ちにくい。毎度そうだが、ウッドチップからでるきのこには分からないものが多い。 |
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昨日さいたま市見沼区の自然公園に寄ってみた。3日前には、きのこの姿はほとんどなかったが(雑記2006.12.14)、新たにハラタケ目のきのこが何種類か顔をだしていた。すっかり明るくなって行ったせいか、ウシグソヒトヨタケかネナガノヒトヨタケのように見えるきのこはかなり溶け出していた。ハタケキノコはあまりよい状態のものがなかった。撮影したのは、シロフクロタケ(a, b)、ジンガサタケ属?(c, d)、タマキクラゲ(e)の3種類だけだった。 はやいもので今年も残すところ2週間となってしまった。今日は菌懇会のスライド会。昨年までは、上映する画像がいくつかあったが、今年は上映するきのこがない。この一年間、撮影したきのこの大半は、ケシボウズタケの仲間やら、海浜砂地に出るきのこばかり。ようするに、どうあがいても「絵にならない」きのこだ。さてどうしたものか。 |
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ふだんスライドグラス上に作成するプレパラートはたいてい左右2ヵ所に作る(a)。2003年頃からはほぼこのパターンでやってきた。胞子の観察では、中央と左右の3ヵ所にカバーグラスを載せる。何枚ものスライドグラスを汚したくないのと、一度に多数観察できるからである。数時間後にも観察したい場合は、水ではなくグリセリンやラクトフェノールなどで封入する。 |
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胞子を油浸100倍対物レンズをつかって、ドライマウント→水封→メルツァーorフロキシンで観察するばあいは、カバーグラスの両端をセロハンテープで固定してしまう(a上)。こうするとドライマウント時でも、安心してステージを動かすことができる。また、ステージ上で染色剤などを加える場合でもカバーグラスがずれにくい。だから、組織を潰すおそれも減る(雑記2005.5.23)。 封入剤を交換したり、試料を洗浄したりする場合、スライドグラスを傾けて、一方から水や染色剤などを少量ずつ加え、反対側の濾紙で余分な液を吸い取っている(b, c)。ただし、顕微鏡のステージに載せたまま行う場合はこの限りではない。同一標本からのプレパラート作成は、一枚のスライドグラスを消毒用アルコールで拭いては使っている。 |
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このところきのこがないので、顕微鏡はもっぱらコケ専用になってしまっていた。冷蔵庫をふと見ると、先日埼玉県名栗村で採取したツネノチャダイゴケが紙袋の中ですっかり干からびていた。ペリジオールについているへその緒も細い紙紐のような状態になっている(a)。 保育社『原色新日本菌類図鑑』にはツネノチャダイゴケの担子器のことには触れていない。伊藤誠哉著『日本菌類誌』2巻5号には、「担子柄は長棍棒形,幅約3.7μm,細長の2−4小柄を生じ胞子を着く」(p.534)とある。一方、ハタケチャダイゴケの担子器については「担子柄は棍棒形,先端膨大,4−8胞子を先端に近き部に輪生す」(p.537)とある。両者の担子器の形と胞子の付き方・数はかなり異なるように読みとれる。 ハタケチャダイゴケの担子器は2006.6.27の雑記でとりあげた。確かに胞子が膨大した先端に輪生している。それに対して、ツネノチャダイゴケの担子器はこれまでみたことがなかった。一度は見たいと思っていたが、なかなか確認するチャンスがなかった。 そこで、今朝はツネノチャダイゴケの担子器の確認を重点的に顕微鏡で覗いてみた。担子柄を2つから4つ持ったものが多いが、3つしかないもの、1つしかないものもかなりある(b〜f)。中には柄がほとんどなく、担子器の先端に胞子が直接着いたようなものもあるなお、胞子の大きさにはかなり変異が大きい。ペリジオールの硬い殼皮は褐色で厚壁の骨格菌糸からできている。原菌糸には明瞭なクランプが多数みられる。 |
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昨日さいたま市見沼区の公園に行ってみた。1週間ほど前に、数種類のきのこの小さな幼菌が何ヶ所かにあった。それらが大きくなっているのではないかと思ったのだが。結果は、徒労に終わった。成長していなかったのではなく、その上に新たなウッドチップがドサッと被されていたからである。20cmほどの厚さのウッドチップの下敷きになっては、幼菌はひとたまりもない。 帰路、馴染みの珈琲豆屋に寄ってみると、思いがけず臨時休業だった(a〜c)。この店の近くの斜面には、例年12月遅くまでスギタケやモエギタケが出る。そこを探索してみたが、傘と柄をもったきのこの姿は全くみられなかった。きのこにも珈琲豆にもフラれた一日だった。 |
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プレパラートは観察さえ済めば後は捨ててしまう。かつては検鏡の済んだプレパラートは封入剤をラクトフェノールで置き換え、染色剤等を加えてから、周囲をマニキュアやラッカーで封入していた。そして、スライドグラスにラベルをつけて専用ケースに容れて保管していた。 たった一つのきのこでも、検鏡する部分が多ければ、その分だけプレパラートも増える。一つのきのこで3〜4枚だが、アセタケなどでは、胞子で1枚、傘上表皮で2〜3枚、ヒダで1枚、柄で1〜2枚、担子器とシスチジアで1枚、つまりたった一標本だけでも、6〜8枚ものプレパラートを作成することになる。これをすべて保管していたら大変だ。 ところが、2001年から2002年頃まで、検鏡したすべてのきのこについてこれをやっていた。(半)永久プレパラートを作成するための作業量はバカにならない。検鏡・記録している時間よりも後処理に時間がかかった。観察1に対して、後処理2〜3くらいの割合となる。 1年以上こんな作業を続けたが、ある日ふとそのバカバカしさに気づいた。きのこに限れば、標本さえあれば、いつでもプレパラートは作ることができる。すぐに川口市の清掃担当部署に連絡して、翌日には100枚入りケースを40箱ほど処分した。この日を境にスライドグラスの消費量が激減した。多量に消費するのはカバーグラスだけとなった。 |
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きのこの顕微鏡観察にあたっては、まず最初にプレパラートを作らなくてはならない。胞子ならカバーグラスに胞子紋をとるなり、別途採取した胞子紋の一部を掻き取って検鏡すればよい。残る作業は試薬、染色剤の選択と顕微鏡の物理的操作だけとなる。 やっかいなのは、それ以外の部分の検鏡だ。ハラタケ目のきのこであれば、ヒダと傘表皮の観察が難しいとされる。売り物のプレパラート標本であれば、それは薄くてきれいなものが要求されるだろう。しかし、観察、同定のためならば、目的のものさえ観察できれば、切片をつくるまでもなく、ピンセットで組織をつまみ出し押し潰しての観察で十分であろう。 薄切りをする職人芸的技能を修得することに時間をかけるくらいなら、山歩きを楽しんだり、スキーやサーフィンを楽しんだ方がよほどましだろう。だから、簡単な道具やジグで、検鏡可能なプレパラートが作れるのであれば、それを利用するのが賢明だと思う。 ちなみに、ふだんきのこを観察するにあたって、カミソリを使っての切片作りはほとんどしていない。ピンセットで組織の一部をつまんでの観察がほとんどだ。さらに、同定のための検鏡では、ポイントになる部分だけしか検鏡しない。 |
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昨日、仲間5人で埼玉県西北部の石灰岩地を探索してきた。新たな地域を探索する前に、9月13日に確認したウロコケシボウズタケの変化の様子を確認した(雑記2006.9.14)。ほぼ3ヶ月が経過したが、そのときの同じ個体がどう変化しているか興味深かった。 予想通り、3ヶ月前の個体はそのまま残っていた。9月13日は雨だったが、昨日はよく晴れて12月にしては気温の高い一日だった。単純には比較できないが、9月13日(a)は写真(a)、9月13日(b)が写真(b)のようになっていた。9月に新鮮だった個体は、ほぼミイラ化していた。しかし、全体のサイズ、柄の太さに大きな変化はなく、目立った変化は柄が萎びたことだった。 その後、埼玉県名栗村の通称こうもり穴(尾須沢鍾乳洞)を訪れた(c, d)。鍾乳洞付近は切り立った岩場で、ロッククライミングの練習場にもなっている。鍾乳洞に到る沢沿いの道はスギ植林地で、道の両側には石灰露岩がずっと続いている。ここを5人で目をさらにして歩いたが、出会ったのはクヌギタケ属や、チャムクエタケモドキ属、ツネノチャダイゴケ(e, f)くらいだった。 |
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