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6月28日の雑記でオニイグチモドキ(g)としたきのこはオニイグチであった(雑記2006.6.28: (j))。オニイグチモドキと誤った理由は二つ。一つは傘の表面の鱗片が、やや硬く角状で密に被われていたこと。今ひとつは対物40倍レンズでみた胞子に網目模様が見られなかったこと。 上段にオニイグチモドキを、下段にオニイグチを、比較できるようにして並べてみた。上段の(c)と下段の(i)とを同時に並べれば、たしかに、鱗片の付き方に違いがあることは分かる。しかし(a)と(g)を同時に並べても、どちらがどちらかは明瞭とは言い難い。 次に精度の悪い学習用顕微鏡の対物40倍レンズで見たとき、両者の胞子に差異は感じられなかった。昨日は、ピンセットで管孔の一部をつまんで、手元の学習用顕微鏡40倍で胞子を見た。これが誤ることになった第二の理由である(雑記2001.8.19)。 オニイグチモドキとオニイグチとは実によく似ている。しかし、胞子の表面模様はまるで違う。だから、検鏡抜きで断定することはできない。油浸対物100倍で見れば、両者の違いは明瞭である(d, e; j, k)。良質の生物顕微鏡であれば、対物40倍でも十分判定可能である(f; l)。 やはりきのこの観察に使用する顕微鏡は、オモチャの顕微鏡や小中学生用の学習顕微鏡では、十分に役立つとは言えない。これらで信頼できるのは対物10〜20倍くらいまでだろう。そうなると、胞子の表面模様の判定は、一般的には無理である。 |
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胞子紋にまつわる最近の失敗談を二つ。 ヒラタケを採取して、その日のうちに胞子紋をカバーグラスにとった。いったんフィルムケースに入れ、1週間ほど机上に放置してしまった。気付いて蓋を開けたときは、カバーグラスの表面が白い綿クズ状になっていた。フィルムケース内は適度の温度と湿度だったらしい。菌糸紋である。 |
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菌糸が長く伸びて、胞子の姿を保っているものはごくわずか(a)。これまでにも、一部の胞子が発芽してしまったことは何度かあった(b)。しかし、ここまでの例は初めてだった(c, d)。 紙袋にいれたまま室内に放置されていたヒラタケには、多数の白いウジ虫がうごめき、ヒダの大半は食われていた。そのヒダを一枚つまんでスライドグラスに平置きしてすぐに捨てた。付着物をメルツァーで封入してみた(e)。虫尿紋である。 もう一つは数種類の胞子が混じってしまった例(f)。胞子紋を取るべく、いつもの通り、カバーグラスにきのこの傘断片を載せた。電話が入ったので、すぐには各々にコップを被せられなかった。暑いのでドアや窓は開け放っしである。チチタケを観察しようとして驚いた。隣接するきのこの胞子が風で吹き寄せられたらしい。汚染紋である。 |
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埼玉県川越市の保護林では急にいろいろなきのこが顔を出しはじめた。発生数が多くて目についたものを20種ほど撮影した。それらのうちからいくつかを取りあげた。 チチタケ(a)、ケシロハツ(b)、クロハツモドキ(c)、クロハツ(d)はあちこちでみられた。他にもベニタケ科のきのこは、オキナクサハツ(k)、ヒロハウスズミチチタケ、ニオイワチチタケなど、白色から赤色までいろいろでている。 ムラサキヤマドリタケが、踏みつぶされたり、むしられて転がっていた。アカヤマドリ(e)、ウラグロニガイグチ(f)、オニイグチモドキ(j)、ミドリニガイグチ、キアミアシイグチなど、イグチの仲間はこの他にも5〜6種類を数えた(l)。 ヤグラタケも小さいながらあちこちにではじめている(g)。ツルタケダマシ(h)、テングタケ、キイボカサタケ(i)、シロイボカサタケは広範囲にみることができた。 |
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さいたま市の公園のウッドチップにハタケチャダイゴケが多数でていた(a, b)。この仲間の担子器を見ることは意外とむつかしい。ちょうどよさそうなものが多数ある(b)。その場で子実体を半分に切ってみた(c)。ペリジオールがゼラチン質の様相を呈している(d)。成熟した個体では担子器はみられない。あまりに若い子実体ではまだ担子器ができていない。 そう思って持ち帰ってきた。まずは、外皮から確認した。はじめにルーペで(e)、次に顕微鏡の低倍率でみた(f)。低倍率でも三層構造は明瞭にわかるが、倍率を少し上げると組織的差異がより明瞭となる。このうち特に、最外層は厚壁、濃色で隔壁はみられない。 ペリジオールには臍の緒状態で紐で外皮最内層に固定されている(g)。この紐は均一の太さの組織で織りなされている。興味深いのは、隔壁部が拳状になっていることである(h)。 ペリジオール内部は透明で何がどうなっているかよく分からない。あらためてフロキシンで染めると、小さな胞子が4つ担子器についている(i〜k)。いずれも未成熟の小さな胞子ばかりである。もう少し成長段階が進むと、担子器はほとんどみられず、大きな胞子ばかりとなる。なお、組織には外皮の最外層以外であれば、どこを切りだしても、明瞭なクランプが見られる(l)。 |
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24日(土)に神奈川県入生田で行われた菌懇会の採取会で、草や枯れ枝に層をなしてまとわりつく白い菌のようなものが多数みられた(a, b)。一見したところロウタケのようにみえた。顕微鏡で覗いてみると、胞子は全く見られず、子実層らしき組織はどこにも見られない(c)。 あらためて過去に撮影したロウタケの写真をいくつか引っ張り出してみた。これをみると、小さくて未熟のように思えるものでも、何となくベタッとしてロウの様な感触がある(d)。これに対して、入生田で採取したものは、粉っぽくて、カラッとした感触があった。 ロウタケであれば、ちょっと切り出した時点で、表層部に担子器から伸びた柄が見えるはずである(e)。そして、倍率を上げてみると、担子器の姿を明瞭に見ることができる(f)。しかし、土曜日の入生田産のものには、どれひとつとして胞子も子実層もみられなかった。 ロウタケとするには根拠が薄弱である。当日実習室で顕微鏡観察をしなければ、ロウタケとして記録されていただろう。他にもボタンタケ(肉座菌)、アセタケ属などを顕微鏡で観察した。きのこの同定における顕微鏡の役割を再認識した一日だった。 |
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かつてきのこの胞子紋は・濾紙・スライドグラス、カバーグラスと三通りの媒体にとり、このうち濾紙とスライドグラスを保存していた(きのこの話題 → 胞子紋のこと)。しかし、最近では濾紙に胞子紋をとることは全くやっていない。 4〜5年ほど前からは、原則として自宅にきのこの標本は残していない。ものによっては標本庫や該当分野の専門家などに送るが、大部分は観察が済んだら廃棄してしまう。これにともなって、濾紙に胞子紋をとることも止めてしまった。 4月27日のハルシメジの胞子観察にあたっては、メモ用紙にスライドグラス、カバーグラスを置いて、その上にきのこの傘を伏せて胞子紋をとった(a)。このスライドグラスはとりあえず半年くらい保管する。カバーグラスにとった胞子紋はその場の検鏡用、メモ用紙に落ちた胞子紋は、色の確認が済んだらそのままゴミ箱行きである。 いろいろな試薬で封入して確認する場合、最初からその枚数分のカバーグラスを準備することもあるが、たいていは、スライドグラスからかき取って使う。固有の試薬反応が必要な属であることなどが判明した場合、これはとても重宝する。 |
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一昨日のヒイロベニヒダタケ同様に、川越市から持ち帰った黒っぽいベニタケ属のきのこを覗いてみた(a, b)。大きくどっしりしている。ヒダはやや疎(b)で縁の近くで枝分かれしている(g)。切断すると急に赤っぽくなる(c)。そのまま放置していたら、いつの間にか黒っぽくなっていた(d)。 胞子は何の変哲もないベニタケ属のものだ。この仲間はいくら胞子を観察しても何もわからない。ただ、ベニタケ科であると確認できるだけだ。どれもみな似たり寄ったりである。FeSO4をはじめいくつもの試薬反応が欠かせない。多くの場合、顕微鏡を使っての観察は参考程度の意味しかもたない。それは承知しているのだが、誤って持ち帰ってしまった。 捨てる前に、とりあえずいろいろと覗いてみた。ヒダの実質はおきまりのタイプ(h)。側シスチジアはみられず、縁シスチジアらしきものはある(i)。傘の一部を切ってみると、表皮と傘肉が明瞭に区別される(j)。傘上表皮の内容は黒っぽい色素を帯びている(k)。担子器は意外と細長い(l)。とりあえずクロハツとして扱うことにした。標本としては残さず、ゴミとして処分した。 |
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きのこ屋(高橋 博)さんのホームページの「くさびら日記」[6月22日] に、「日本きのこ図版」で名高い青木 実氏のにこやかな写真と肉声が載っている。2004年9月12日にご本人の許可をえて撮影・録音したものである、という。 「日本きのこ図版」とは独立した著作である「日本きのこ検索図版」というものがあることはほとんど知られていない。その検索図版(検索表)について語っているさわりを、ごく短時間であるが肉声で聞くことができる。これは非常に貴重な記録だと思う。 なお、「日本きのこ検索図版」は500ページ弱で、詳細な図入りの検索表である。単独で使用しても有用であるが、とりわけ「日本きのこ図版」とあわせて使った時に本領を発揮する。そのまま「日本きのこ図版」への総合検索表ともなっている。 かつて、「日本きのこ図版」の総合索引をデジタルデータとして作成した。膨大な量であった。しかし、関係者に配布することはなかった。「日本きのこ検索図版」の存在を知ってボツにした。たしか4〜5年前の今頃のことだった(雑記2001.6.28)。 |
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川越市の保護林に色鮮やかなヒイロベニヒダタケが出ていた(a, b)。胞子(c)を確認した後でヒダを切り出した(d)。この仲間のヒダは潰れやすくてなかなかうまく切り出せない。ヒダ実質は逆散開型である(e)。子実層をみると側シスチジアが見える(e)。フロキシンで染めるとはっきりする(f)。まずはこれだけをバラしてみた(g)。 ヒダの先端をみると、薄膜の縁シスチジアが密集している(h)。これは軽く押しつぶしてフロキシンで染めてみた(i)。担子器はとても脆くて、なかなか形の整ったものは見つからなかった(j)。傘表皮の鮮やかな色は、真っ白な傘肉とは明瞭に区別できる(k)。傘上表皮の組織は、子実層状被で、傘色を特徴づける色味を帯びている(l)。 |
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先日は生状態のシロキクラゲから子実層を切り出して観察したが、薄切りにするのは思いの外難しい(雑記2006.6.14)。6月14日以来ずっと室内に放置して自然乾燥させた(a)。 乾燥標本からの切り出しは非常に楽だ。ピスも不要だ。ふだん乾燥標本からの切り出しは穴あきルーペを使っている。これは小指を通して固定できるので便利だ。組織の切り出しに、実体鏡や頭から被る形式の拡大鏡を使うこともあるが、ふだんはたいてい穴あきルーペひとつですましてしまう(b)。携帯性と価格を考えるとこれは非常な優れものだ。 あまり考えることなく2枚ほど切り出した(c)。指先につまんだ標本を、カミソリで軽く標本の表面を撫でる(b)。切片をあらためてフロキシンで染めた(d)。乾燥標本からの切り出しは比較的簡単なので、押し潰さずとも組織構造や担子器などが楽に判別できる(e, f)。 指先に装着する拡大鏡というものもある。しかし、そういったものを購入せずとも、穴あきルーペさえあれば、乾燥標本や生標本からの切り出しは案外楽にできる。 |
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