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2006年7月10日(月)
 
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 今の時期に出る「ヒラタケ」といえば、まず間違いなくウスヒラタケトキイロヒラタケ(a)だろう。トキイロヒラタケという和名には惑わされやすい。いわゆるヒラタケ色をしていると、なかなかトキイロヒラタケとは思えないかもしれない。天然自然では、夏にヒラタケがでることは希らしい。
 そのトキイロヒラタケは、図鑑などによるとミズナラやカエデなどの広葉樹にでるされる。しかし、ピンク色の典型的なトキイロヒラタケは、なぜかフジの老木からよく出る。写真のもの(a)も、滋賀県御池岳の沢のフジからでていた。ミズナラからは灰白色のものしか見たことがない。
 胞子はありきたりの姿をしていて、水で封入するととても見にくい(b)。ヒダ切片は意外とと切り出しが面倒だ(c)。ひだ実質は錯綜型(d)、先端にはシスチジアらしき組織がみえる(e)。ヒダを一枚つまんで、フロキシンを加えて縁を見た。薄膜の縁シスチジアが多数ある(f)。3%KOHに置き換えると縁シスチジアの形が明瞭になった(g)。
 菌糸構造は、dimiticつまり原菌糸と骨格菌糸からなっているようにみえる(h)。よくみると、やや厚壁の菌糸には隔壁やクランプをもったものがある(i)。菌糸壁が厚くともこれは原菌糸ということになる。もちろん、薄壁の菌糸にはいたるところにクランプが見られる(j)。
 菌糸型の観察(消しゴムでごしごし)には、こんな高倍率にするとかえって分かりにくい。対物20ないし40倍くらいで、広い視野の中で隔壁やらクランプの有無を確認するのが常道だ。これまでにも何度も同じ間違いをしてdimiticをmonomiticと間違えている。
 とき色ヒラタケという和名は、学名のPleurotus salmoneostramineus (鮭肉藁色をした)をそのまま和名としたもの。現在、P. salmoneostramineusは、P. djamorのシノニム(同義語)とされ、これは灰白色のきのこだという。トキイロヒラタケかならずしも、鴇色とは限らない。

2006年7月9日()
 
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 このところ気温は高く雨はよく降っている。にもかかわらず、近郊の自然公園ではきのこの発生は思いの外よくない。昨日さいたま市緑区にある馴染みのコーヒー豆屋に行ったので、見沼にある自然公園などに寄ってみた。
 ウッドチップからは、7〜8種類のお決まりのきのこが多数でている。しかし、相変わらず名無しのままだったり、不明種のままのものが圧倒的に多い。昨日も、モリノカレバタケ属やフミズキタケ属の小さなきのこが、いずれも大きな群をなしているのが目立った。
 方向を変えて、秋が瀬公園に回ってみたが、ここでもきのこの姿はとても少ない。目立ったきのこを3種ほど持ち帰った。アンズタケの仲間(a)とイッポンシメジ属(c)は、公園内に広く発生していた。ウッドチップから出たチャツムタケ属(e)の赤紫色のきのこには、赤い小さなダニが多数群がっていた。今朝は、それらの胞子だけを覗いてみた。
 それにしても、胞子だけの観察と撮影は、何と簡単なことだろう。3点の標本でも5分とかからなかった。使ったスライドグラスも計1枚だけ。胞子紋はカバーグラスにとり、いずれも水で封入。撮影が済めばそのままゴミ箱行きだ。

2006年7月8日()
 
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 三重県津市の県庁脇の公園から小さな黄色のアセタケを持ち帰った(a)。紙袋に入れた状態で冷蔵庫の野菜篭に放り込んでおいたところ、すっかり乾燥してとても小さくなっていた。熱乾燥したわけではないから、生のときの色は保たれていた。胞子はゴツゴツと角張っている(b)。
 ヒダを切り出してみた(c)。縁にも側にも厚壁のシスチジアが多数見える(d〜f)。先端にはクリスタル状の結晶がついている。縁シスチジア(g)も側シスチジア(h)も大きさ・形などはほぼ同じようだ。担子器は明瞭には撮影できなかった(i)。傘には周辺部(j)にも頂部(k)にもシスチジアはみられない。柄(l)にもシスチジアはない。キイロアセタケとしてよさそうだ。

[追記]
 7月3日の雑記で、青木 実著「日本きのこ検索図版」を紹介したおりに、青森県黒石市の松井和雄氏のことにふれた。昨日松井氏から連絡があり、[日本のキノコ分類] を示した掲示板は現在もアクセスできるという。オアシス文書をそのままWeb形式に変換したためか、多くの文字化けで読みにくくなっているのは残念だが、以下のURLをたどると参照することができる。
             http://homepage2.nifty.com/481010/ →「きのこ掲示板」に入る
 それらの中に「1995年に青木実様から、私宛に荷物が届き、日本きのこ図版1〜2172までのまとめとして、日本きのこ検索図版という、シンガー氏の分類にそって、整理、別名で発表したが、同種とみとめられるものを、1つの名前に統一して新しく作ったものが送られてきました。
 正式な学名とは、区別して使うなら、自由に使って良いと、手紙までいただきました。
」とある。
 なお、掲示板は、最近になって作り変えられたそうだ。また、1997年刊の「きのこ族 別冊」掲載のデータなどもすべて公開しておられるようである。


2006年7月7日(金)
 
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 今月4日の雑記で「石灰岩を覆ったミズゴケ類から」と書いたが、これは大きな間違いであった。何人もの方から疑念を呈されたが、正しくは、ミズゴケ科の蘚類ではなく、シノブゴケ科のトヤマシノブゴケ Thuidium kanedae である(a〜c)。千葉で古木達郎博士に同定していただいた。
 このコケは樹木にも岩石にもつき、特に石灰岩を好むわけではないらしい。持ち帰ったのは、ケシボウズが発生していた部分を中心に径10cmほどのコケの束である。仮根の部分を中心に、細かく探して見たが、ケシボウズの菌糸らしきものは見つからなかった。
 菌糸探しの過程で、コケの各部を切り出して覗いて遊んだ。茎(d)を縦横に切ってみたり(e, f)、茎の葉や、枝の葉など、非常に興味深い世界をかいま見た(i〜l)。茎の表面についている毛様も顕微鏡でみると面白い表情をみせてくれる(g, h)。コケ世界もなかなか興味深い。
 ミズゴケ類との表現に対して、誤りを指摘してくださった方々、また、快くコケの同定をしてくださった古木博士、ありがとうございました。

2006年7月6日(木)
 
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 7月1日に三重県津市の県庁脇の公園からキヒダタケを持ちかえった(a)。時間がとれずに、そのまま冷蔵庫に放り込んでおいたら、すっかり萎縮して小さくなっていた。しかしそれでも胞子紋はたっぷり落ちたので、まずは胞子から覗いた(b)。メルツァー液を加えると赤褐色に変色した(c)。偽アミロイドである。
 干からびたヒダは先端がすっかり乾燥して硬くなり始めていた。切片にもそれは顕著に現れている(d)。低倍率で見ると、シスチジアの類はまるで見えないが、やや倍率を上げると、ヒダの先端(f)にも側(e)にも透明で薄膜のシスチジアがあることが分かる。縁シスチジアは大きく、油浸100倍レンズでは、全体像を視野に捉えることができなかった(g)。側シスチジアもサイズが若干違うだけで、似たような形をしている。担子器の基部にはクランプは見られない(h)。念のために傘表皮も観察した。水で封入するぶんには、赤褐色 の色素などはそのままであるが(j)、5%KOHで封入すると殆どすべてが透明になってしまった(i)。

2006年7月5日(水)
 
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 今年4月16日(日)の菌懇会ゼミで折原貴道氏による「ジャガイモタケとOctaviania属の分類」を聞いた(雑記2006.4.18)。ところで、Ovtaviania属の胞子表面はごっつい刺(疣)で被われている。特に興味を引かれたのが、その刺(疣)が封入液によって伸長するという話であった。
 一度自分の目でも確認したいと思っていたが、肝心のジャガイモタケ属になかなかであうチャンスがなかった。つい先日、川越市でジャガイモタケ属を採取した。クヌギ・コナラの広葉樹林の地表に一部顔を出していた(a, b)。広葉樹林での採集は初めてだった。
 はじめに水(c, d)、次に5%KOH(e, f)で封入してみた。胞子表面部(c, e)と輪郭部(d, f)に合焦したものを並べてみたが、以降は輪郭部の写真だけで比較してみる。水と比較して5%KOHで封入したものでは、刺の長さが若干長くなっている(f)。見え方も鮮明である。
 乳酸に溶かしたコットンブルーで封入(g)、ラクトフェノールで封入(h)したものでは、刺の長さがかなり長くなっていることがわかる。一方、水で封入してフロキシンで染めると疣は逆に短くなってしまった(i)。この水をラクトフェノールで置き換えると、疣が大幅に伸長した(j)。
 ついでに、担子器の姿を確認してみた(k, l)。胞子が担子器の小柄と繋がっているのは、どうやら初期だけらしい。担子器から離脱した胞子は、単独で更に成長して大きくなるようだ。やがて担子器は溶けてしまい、成菌になると担子器は殆どみられなくなる。

2006年7月4日(火)
 
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 日曜日(7/2)に滋賀県の山の中でケシボウズを探した。現地に詳しい水谷ご夫妻の案内で、仲間5名と一緒に激しい雨の中を歩いた。発生現場を直接自分の目で確認することができ、新たな標本を得ることもできた。ナガエノホコリタケ、ウロコケシボウズタケなどよく知られているケシボウズとは発生環境(a, c, d)も、胞子の形態(f)も著しく異なる(雑記2006.6.19)。
 この日出会ったものは、石灰岩を覆ったミズゴケ類から出ていた。コケ層の薄い部分から出ていたものは柄が短い(b)。岩の上側のやや厚いコケ層からでていたものは、柄の長さが8〜10cmほどあった(a)。一方では、1.5〜2.3cmのものもあり(b)、長さの幅はかなり大きい(e)。このケシボウズは、国内新産種のTulostoma fulvellumである。
 ヒルやマムシとも直接素肌で触れあって戯れることができ、印象的で思い出に残る楽しい山歩きだった。水谷さん、皆さん、ほんとうにありがとうございました。

不用意にミズゴケ類などと書いてしまったが、これは大きな誤りで、正しくはトヤマシノブゴケ Thuidium kanedae である。7月6日に千葉県立中央博物館の古木達郎上席研究員に同定していただいた。誤りを指摘してくださった皆さん、ありがとうございます(2006年7月6日補足)。

2006年7月3日(月)
 
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 きのこ屋(高橋 博)さんの(くさびら日記)(7月1日)で「音声ファイル その2」として、青木 実さんの肉声を聞くことができる。6月22日の「音声ファイル」に続くもので、「日本きのこ図版」と出版に関わることなど、興味深い話が語られている。

 けさは、その青木 実氏による「日本きのこ検索図版」についての覚書である。青森県黒石市の松井和雄氏が、1995年に青木氏から寄贈を受けたという図版の文字部分を、氏のホームページ上の掲示板で精力的に公開しておられた。現在はどうなっているのだろうか。
 青木氏は毎年のように、この検索図版を改訂され、それは1997年まで続いた。全体を見直しては、改訂を加えると、その年度を該当ページの下に鉛筆で克明に記していた。たとえば、マツオウジ属ならば最終改訂は1997年であり、ツバマツオウジを加えている(a)。
 ザラミノシメジ属では、1995年版と1997年版とでは同一内容ということになる(b, c)。検索図版に記されている番号は、原則として「日本きのこ図版」の番号である。これは驚くほど詳細である。ザラミノシメジ属2枚目(c)にあるアシブトザラミノシメジ(2122)、ハタケザラミノシメジ(2121)など、大部分はナンバーから直ちに該当種にたどり着ける。
 だが、博覧強記の青木氏でも記入ミスはある。ザラミノシメジ属1枚目(b)に、オオシロザラミノシメジ(1054)とある。日本きのこ図版のNo.1054を見ると、コフクロタケである。正しくは、No.1053であり、4ページにわたってオオシロザラミノシメジについて詳細に記されている。
 大きな科や属では、検索図版は当然ながら何枚にもわたっている。ヒトヨタケ属にいたっては20枚に及ぶので、節、亜節、列に分けて細かな属目次がついている。ここには例示の意味で、アカヤマタケ属(No.1〜No9)を並べてみた(d〜l)。


2006年7月1日()
 
(a)
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 チチタケのヒダを実体鏡でみると、縁にも側面にも、一面に明瞭な毛が生えている(a)。ヒダを一枚切り出して顕微鏡でみると、鮮やかなほどに厚壁のシスチジアに被われている(b)。ヒダの縁をみても(c)、子実層をみても(d)、厚壁のシスチジアは同じようにとても大きい。担子器(e)や傘表皮(f)も型通りみたあと、これは食用となった。一般的に傘表皮には顕著なシスチジアがみられるが、今回覗いたチチタケには見られなかった。それにしても、チチタケの仲間は、生状態での観察はとても難しい。カミソリもすぐに切れなくなる(雑記2005.11.18)。

 今日・明日は三重・滋賀に行って来るので、明日の雑記はお休み。am4:30そろそろ出発だ。


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