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2006年1月20日(金)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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 このところ毎日少しずつ手元のケシボウズ属標本を分別してきた。新たにSEMで撮影すべき標本の抽出である。採取日や採取場所は異なっても明らかに同一種と判断できるもの等が結構ある。採取リストや検鏡データなどと照合しながら、一袋ずつチェックしていく。一つの袋には10〜50個体が入っている。1個体だけのものもある。作業には簡易顕微鏡とパソコンを使う。
 先週5日間ほどパソコンが故障したために、選別作業は完全にストップだった。未整理袋は残り100前後、あと4〜5日はかかりそうだ。この作業を始めると、8畳の部屋一杯にサンプルが広がるので、足の踏み場もなくなる。顕微鏡とパソコンとの間を行き来する。なお、写真は作業中の標本の一部だ(a〜c)。整理済みの箱は別の場所に格納される(d)。

2006年1月19日(木)
 
quadrifidum or fornicatum
 
 例年冬の時期になると、何度も小さなgeastrum(ヒメツチグリ属)を取りあげている。冬場はしばしば海辺に行くので、おのずと出会う機会が多いのだろう。これまでにgeastrumを取りあげた「雑記」を検索してみるとずいぶんある。何故か2005年はほとんど取りあげていない。
突起部に溝線なし2003.1.21 2003.2.20 2003.4.25 2004.1.28 2006.1.17
突起部に溝線あり2003.2.12 2003.12.7 2004.2.9 2004.2.11
 これらのうち、下段に列挙した雑記で取りあげたgeastrumは頭部の突起に溝線があるタイプである。しかし、上段に列挙したものは、菌糸マットを持ち外皮が弓なりになるタイプである。これらの雑記でも何度かg. quadrifidumやg. fornicatumを取りあげている。雑記を書いた時点の判断でアップしているので、今見ると間違いが結構ある。
 geastrum同定のキーワードは、hygroscopic, fornicate, arched, peristome, plicate, sulcate, apophysis, stalk, ray, umbonate, .... 結構いろいろある。形態観察が重要とされ、光学顕微鏡を覗いても決め手になるようなものがほとんどない。

2006年1月18日(水)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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 埼玉県川口市では屋外で見られる樹花というとサザンカとロウバイくらいしかない(a)。どこのツバキもまだほとんど青い葉をつけただけの状態だ(b)。しかし、陽当たりのよい場所では急に蕾が大きくなってきた(c)。先日の雨とここ数日の暖かさのせいかもしれない。
 先の木曜日(12日)に、子嚢盤の径1.5〜2mmくらいのツバキキンカクチャワンタケが出始めたことを知った(d)。そのときは、まだあまりにも小さく数も少ないので全く取りあげなかった。昨日夕刻にはかなり大きくなっていた(e, f)。子嚢盤の径は7〜9mmほどにまで成長している。
 昨年は1月初旬(雑記2005.1.30)、一昨年は1月22日(同2004.1.23)、その前の2003年は1月31日(同2003.2.1)に発生を確認している。首都圏では例年1月中頃にはツバキ樹下に発生しているようだ。昨日はサザンカ樹下にはひとつも見つからなかった。

2006年1月17日(火)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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 1週間以上放置していたヒメツチグリ属の一つ(a)を観察した。今月8日にひたち海浜公園の砂丘部から採取してきたもののひとつだ。頭部の径4〜6mmほどで、孔縁盤は内皮から明瞭に区別され溝線はない(b, d)。外皮は4〜5枚ほどの裂片となり、弓状に反り返って地上の菌糸マットに繋がっている(c)。内皮の基部には明瞭な膨らみがあり柄生である(d)。
 外皮内側には偽柔組織からなる中皮の残骸が残っていた(d, e)。胞子は疣状突起をもった球形(f, g)。弾糸は多くが厚膜で、分枝は少ない(h)。コットンブルーで染まる薄膜の菌糸もある(i)。紙質の内皮は厚膜の菌糸で織られた布のような構造をしている(j)。
 geastrum forunicatumとg. quadrifidumが候補にあがる。孔縁盤が内皮から明瞭に区切られていること、内皮基部に明瞭な膨らみがあること、胞子サイズなどから、g. quadrifidumとしてよさそうだ。ひたち海浜公園にはg. quadrifidumが圧倒的に多いが、千葉県外房ではg. fornicatumもよく見られる。いずれも砂丘部からクロマツ防風林の縁に見られる。
 なお、故吉見昭一氏は、g. quadrifidumに対してセイタカヒメツチグリ、g. fornicatumに対してコセイタカヒメツチグリの名を与えている(「平成11年度 熊本きのこ会年報」p.70, 平成12年6刊)が、これはどこかで適切な記載を伴って明確に発表されたものだろうか。

2006年1月16日(月)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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 今年初めてケシボウズタケ属の検鏡をした。1月8日に茨城県のひたち海浜公園から持ち帰ったものだ(雑記2006.1.10)。現地では頭部だけが地表に姿を現していて、まるでウサギの糞が転がっているかのようだったが、周囲の砂を少しどけると白い柄が見えた(a)。
 外見からの判断でほぼウネミケシボウズタケに間違いなかろうと思っていたが、検鏡するまでは確定できない。最初に砂を噛んで厚い外皮を剥がしてみた(b, c)。内皮は軽くピンク色を帯びており、孔口は繊維性の房状をしている(c)。
 はじめに食卓上の簡易顕微鏡を使い、対物40倍レンズでみた(d)。胞子はスジないしウネ状をしている。顕微鏡を変えて、油浸100倍レンズで胞子、弾糸を観察した(e, f)。胞子表面には明瞭に太いウネが見える。ウネミケシボウズタケに間違いない。
 今年になって初めてのケシボウズ検鏡だった。未検鏡の標本は今年元旦のものはもちろん、昨年6月くらいから相当数たまっている。毎日数点は見ないと永久に終わらない。

2006年1月15()
 
Tulostomaの記載
 
 ハラタケ目や子嚢菌の記載は、記載シート等は使わず白紙に観察内容を記載する。標本として標本庫などに入れてしまえば、記載紙は捨ててしまう。要するに面倒臭いのだ。
 ただケシボウズタケ属Tulostomaについては、それなりの形式にしたがって記録している。標本番号(t02001)が記載用ファイル名(t02001.txt)となり、これに記載していく。種名や和名などはたいてい空白のままである。後日判明すれば記入する。
 一例としてt02001.txtを示した。これに英語やラテン語でテクニカルタームを列挙する。相・法や格変化は無視し、日本語を使う場合は前後に /*、 */ という文字列を置く。形式がパターン化されているので、Perlの数行で簡単にCSV形式の一覧ファイルが作成される。
 なお、かな漢字を使わないのにはいくつか理由がある。そのひとつは、汎用テキストファイルでの保管である。半角英数字記号のみを使えば、面倒な文字コードやOSの問題はクリアできる。保存時のスイッチ一つで、/* と */ で囲まれた部分や、# で始まる行は捨てられる。

 昨日から今朝、壊れたパソコンの修復作業のため、他のことは何もできなかった。仕様が一時代前に戻ってしまったので、体感速度はかなり遅くなった。壊れたハードディスクからは95%ほどデータを救い出せたので、とりあえず使用可能な状態に復旧した。メール環境が復活したが、再びスパムメールや迷惑メールの波が押し寄せてきた。

2006年1月14日()
 
(a)
(a)
(b)
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(c)
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(d)
(d)
(e)
(e)
 久しぶりにきのことはまったく関係のない話題。昨日新潟県と群馬県の豪雪地帯の山間部を走ってきた。渋川あたりから雪景色となり、赤城高原周辺からは谷川岳の勇姿が見渡せた(a)。国道17号線も三国峠は穏やかだったが、越後湯沢に入ると雪壁の中を走っている状態となった。車窓からは標識も家屋も見えない(b)
 国道を離れて山間部に入って細い道を進むと、多くはやがて通行止めとなる(c)。山間部の雪面にはいたるところに大きな亀裂が入り、今にも雪崩そうなところが目立つ。ひなびた小さな温泉に寄ろうにも、近づけない。山も越えられない。すごすごと引き返す。ごく一部の幹線と生活道路以外はほとんどが通行不能だった。
 再び山を越えて群馬県に入ると雪はかなり減るが、水上町藤原の先ではやはり豪雪に悩まされる。古い社は雪の重みで今にもつぶれそうだ(d)。雪壁に囲まれた宝川温泉や谷川温泉などの露天風呂でのんびりしてから帰宅した(e)。総行程580km。

2006年1月13日(金)
 
(a)
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(c)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
(j)
 先日ひたち海浜公園で採取したマツカサキノコモドキを覗いた。今年の覗き初めである。採取地はチガヤなどの草本しかない砂丘部だが、昨年初め頃までアカマツがあった。使ったのは傘径8mmほどの小さな個体で(a)、ヒダには無数の砂がついていた(b)。
 予想どおり、乾燥したヒダとミクロレベルの砂粒に難儀して、やはり見やすい切片は作れなかった(c)。しかし、並列型のヒダ実質や、厚膜のシスチジアは明瞭に捉えることができる(d, e)。傘の上表皮は子実層状被だが、風や砂の影響か形が崩れている(f, g)。典型的な洋梨型子実層はみられなかった。傘シスチジアは短いものばかりだ(f, h)。
 柄の表面には無数のシスチジアがみえる(i)。これは典型的な姿をしている。念のために担子器をKOHとフロキシンでマウントしてみた(j)。担子器の基部にも他の組織にもクランプは見られない。外見からだけだと、ニセマツカサシメジと紛らわしく判断に迷うケースがしばしばある。しかし、顕微鏡で傘表皮か柄の表皮を観察すれば、明瞭に違いがわかる(cf: 雑記2005.11.13)。

 昨日メインパソコンが壊れてしまったので、今朝の雑記更新は旧式の予備パソコンを使うはめになった。いつもなら5分かからないアップロードに30分以上かかってしまった。今年はまだバックアップを取っていなかったので、昨年12月後半あたりからのデータも一緒にすっ飛んでしまった。

2006年1月12日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
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(e)
(e)
(f)
(f)
 連休のひたち海浜で出会った他のきのこも少し取りあげておこう。先日の雑記でも書いたように、砂丘部で傘と柄をもったきのこが見られた(a)。掘ってみると橙色を帯びた柄(b)と砂にまみれた長い偽根(c)がでてきた。その先は砂中に埋まった松毬に繋がっていた。マツカサキノコモドキである。その一方で、砂丘部にはニセマツカサシメジも見られた(d)。
 この砂丘部は今でこそイネ科、カヤツリグサ科などの草本が支配的だが、かつて随所にアカマツが生えていた。昨年までに大部分が伐採されたが、松毬はいたるところに転がっている。きっと来年までは砂丘部にニセマツカサシメジなどが見られることだろう。
 ケシボウズの仲間では、ウネミケシボウズタケのほかにも、ややミイラ化した状態のナガエノホコリタケ(or アラナミケシボウズタケ)が何ヶ所にも見られた(e, f)。スナヤマチャワンタケも数ヶ所で見られたがよい状態ではなかったので撮影はしなかった。

2006年1月11日(水)
 
統一記載シート
 
 先日の雑記で記載シートについて触れ、菌懇会のものを紹介した。しかし、筆者らはこれまで記載シートの類はほとんど使っていない。というのは、既知のきのこなら記載などしない。よくわからない、あるいはどうも違うのではないか、そう感じるものだけ記載する。その場合、えてしてパターン化された記載シートを使うと、しっくりなじまないことが多い。
 全国共通の統一的なきのこ記載シートを作成しようという考え方がある。記載シートの有用性は否定しないが、この考え方には基本的なところで受け入れがたいものがある。
 ハラタケ目のきのこひとつとってみても、目レベルでなら共通の項目はかなりあるものの、科レベル、属レベルになると記載項目にはかなりの相違がある。したがって、記載シートの種類が少ないと、一枚のシートの大半が無駄な項目となったり、必要な項目を欄外やその他に記載しなくてはならなくなる。これに対しては、際だった特徴のある群ついては、科ごとに、あるいは属ごとに別々の記載シートを作って対処すればよいと反論される。
 この考え方を押し進めていくと、必要な記載シートの種類は次々と増えていく。そして、使用すべき記載シートを選択する段階で、かなりの分類学的知識が必要となる。共通統一記載シート作成の趣旨は「最少の基礎的素養さえあれば、誰にでも漏れなく必要な項目を記載でき」、「国内どこにいっても共通の土俵に立った信頼性の高い記載が得られる」ことにあるとされる。しかし、この主張には根本的な矛盾が潜んでいるように思う。
 日本全国の菌類分布を明らかにするため、全国のアマチュアが共通の土俵の上で信頼性の高い記録を残す必要がある、という主張には異論はない。そのためには記載シートはあった方がよいかもしれない。しかし、それが全国統一シートである必要はまったくない。
 日本全国には多用な価値観をもったきのこの会がある。目的も価値観も異なることから、それぞれ菌類学的な基礎的素養の水準もまちまちである。さらに、わが国の教育課程に菌類学教育が欠如していることもあり、菌類に関わる基礎知識が広く共有されているとは言い難い。したがって、共通の土俵にたって菌類について語り合うことはかなり難しい。
 植物などと違い、きのこでは属はおろか科の判定にも迷うケースは多い。誰のための記載シートとするのか、つまり、前提とされる菌類学の基礎的素養をどの程度に設定するかは問題である。これによってできあがる記載シートは全く違ったものになる。また、目的によっても記載シートの項目と精度は多様とならざるを得ない。したがって、それぞれが目的とレベルに応じた使いやすい記載シートを作ればよいのではあるまいか。

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