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さらに詳細に検討するとなれば、きのこ先進国で書かれた図鑑や専門書にあたる必要がある。ここから先は和名は一切通用せず、学名だけの世界となる。ベニヤマタケにあてられた学名は Hygrocybe coccinea (Schaeff.:Fr.) Kummer となっている。 たとえば、"Dictionary of the Fungi 9th" で "Hygrocybe" を引くと、そこには代表的な文献がいくつも掲載されている。それらの文献にあたればさらに詳しく知ることができる。最近ではネット上からも多くの情報を得ることができる。 定評のある総合図鑑である「スイスの菌類図鑑(Fungi of Switzerlanad)」が手元にあるのでこれにあたってみた。Vol.3、No.83(p.104〜105)に、カラー写真と検鏡図が掲載され、詳細な解説が英語で記されている(英語版)。そこに記された特徴をあらためて再確認すると典型的ではないが、ベニヤマタケとして大きな間違いではなさそうだ。 ヨーロッパの菌類シリーズ(Fungi Europaei)では、第6巻に "Hygrophorus" というモノグラフがある。そこにはベニヤマタケ Hygrocybe coccinea の変種として H. coccinea var. marchii とか H. coccinea var. umbonata などに言及している。それらを詳しく知るには、巻末に列挙された参考文献や引用文献にあたることになる。菌類洋書・自然史洋書の通信販売で著名な佐野書店では、「2007年9月の文献案内」としてヌメリガサ科文献を重点的に取りあげている。著名な良書がいくつも並んでいる。 ちなみに、保育社の図鑑を使わずに、海外の文献の検索表を使って件のきのこを検索すると、複数の文献でHygrocybe coccinea に落ちた。著名な入門書として知られる "How to Identify..." シリーズでは Hygrocybe属に落ちる。"Mushrooms Demystified" では Hygrocybe coccinea までたどれる(雑記2007.9.20)。 ロウ質の赤色のきのこを観察し、いくつかの図鑑やモノグラフに目を通してみたが、あらためて保育社「原色日本新菌類図鑑」がよくできていることを感じた。ただ、自らの観察結果をなるべく客観的に読みとって、批判的に読むことが必要なのはいうまでもない。 今日から約10日間中国四国地方に出かけるので、6〜15日は「今日の雑記」はお休み。そろそろ西穂高岳独標に向けて出発だ。am3:00、ありゃ! 雨が降ってきた。 |
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昨日たどった検索表からはベニヤマタケらしいという結果を得た。そこで、他の図鑑類にあたってみた。例えば山渓カラー名鑑「日本のきのこ」には、p.45に写真と解説がある。この写真も保育社図鑑の絵とよく似た姿をしている。そこの解説に「ヒイロガサ(p.43)にきわめて似ているが、傘に粘性を欠き、柄に縦の繊維紋がないなどの点で区別される」とある。p.43に掲載されたヒイロガサの写真をみると、確かに先日観察したきのこと外見がよく似ている。 とりあえず、保育社図鑑の線画を典型的な形だと判断すると、採取・観察したものは典型的な姿からは若干外れた姿をしていると考えられる。もしかしたらベニヤマタケの変種か品種などの可能性もあるが、とりあえずはベニヤマタケとして大きな誤りはないと思う。 他にも豊富な写真を並べた図鑑は多数あるが、写真は必ずしも典型的な姿のものが掲載されているとは限らない。また、限られた文字数の中では、種の特徴を、他の種と区別できる程度にまで、書き記すことは困難だ。写真主体の図鑑は、確認用には適していても、自分の知らないきのこの同定を目的として使うと、時にひどい誤同定に導かれないとも限らない。
数年間使ってきた一眼デジカメE-300一式を手放した。小型軽量でダストリダクション機能もあり、比較的気に入っていたのだが、本体だけでは長時間露光ができない。発光するツキヨタケ撮影でかなり難儀した。その件がきっかけで、古いニコンのD70に戻ることにした。 |
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昨日の観察結果に基づいて、保育社の原色日本新菌類図鑑(I)の検索表にあたってみた。まずp20〜23にある「ハラタケ目の科への検索表」からはじめた。 子実体の肉には球形細胞を含まないから、[1'] → [2] へ行く。子実層托実質は並列型だから [10] へ飛ぶ。胞子は角張った形をしていないから [10'] → [11] へ飛ぶ。子実体は脆く肉は薄膜の菌糸だけからなるから [11'] → [12] へ飛ぶ。子実層托はヒダ状だから [12'] → [13] へ飛ぶ。[13] には「ヒダは厚みがあり」「担子器は細長い棍棒型」「ヒラタケ型ではない」「胞子紋は白色」「偽アミロイドではない」などほぼ該当する。したがって、ヌメリガサ科ということになる。 次にヌメリガサ科の検索表にあたってみた。p.37にあるヌメリガサ科を開いて、「属への検索表」にあたる。胞子は平滑だから [1'] → [2] → [3] → [4] → [5] まではすんなりくる。ここで傘上表皮について記されるが、観察結果は細胞状や子実層状ではなく平行気味に匍匐するから [6] を選び、ヒダ実質が並列型だから [6'] のアカヤマタケ属 Hygrocybe となる。 次に、p.45にあるアカヤマタケ属へ飛び、「節への検索表」にあたった。これは [1'] → [2] → [3'] → [4'] とたどれるから、ベニヤマタケ節に落ちる。 さらに、p.49の「ベニヤマタケ節の亜節への検索表」にあたると、傘は平滑だからベニヤマタケ亜節に落ちる。そこで「検索表C:ベニヤマタケ亜節」という検索表にあたった。 胞子は類球形ではないから [1']、ミズゴケ上に発生しないから [2'] → [3] に飛ぶ。ヒダは離生ではなく直生状上生だから [4] へ飛ぶ。傘は赤色だから [4'] → [8] → [9] へ飛ぶ。ここでは胞子の幅が問題となり、3.5μm以上だから [10] へ飛ぶ。観察結果によれば、胞子は6〜8×4〜5μmだから、[10'] がほぼ近い。そこで、[11] へ飛ぶ。ヒダは三角形をなさず直生状上生だから [11'] を選ぶ。すると、右側にベニヤマタケ Hygrocybe coccinea と種名が記されている。 そこで、p.51にあるベニヤマタケについての記述を読んでみた。観察結果と大きな相違はなく、ぼぼ合致する。そこで、はじめてPLATE7にあるベニヤマタケの図を見た。そこに描かれたベニヤマタケの絵はあまり似ているとは思えない。そこで、他の図鑑類のベニヤマタケの写真を見てみる。はたして、どういう写真が掲載されているのだろうか。 |
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腐りきった広葉樹の切り株の脇から、鮮やかな朱色の小さなきのこがでていた(a, b)。きのこをよく知っている人なら、この写真だけから直ちに種名が分かるのだろう。先日のヒメスギタケと同じく、先入観抜きで、保育社図鑑の検索表から種名を探索してみることにした。 傘径は12〜20mm、表面に粘性も条線もなく平滑、血の赤色、傘肉に近い部分は多少赤色。柄は、4〜5cm×10〜15mm、上下同大で、傘と同色、基部は黄橙色で、中空。ヒダは、傘に上生〜垂生し、やや密で、ロウ質、傘とほぼ同色(b〜d)。 胞子は楕円形〜ソラマメ形で、6〜8×4〜5μm、膜は薄く平滑、非アミロイド。ただし、落下胞子ではないので、もう少し大きくなるのではないか。ヒダを切り出してみた(f)。子実層托実質は並列型で、子実層はとても厚く、シスチジアはみられない(g, h)。傘表皮は、匍匐状に菌糸がはしり、随所にささくれがある(i, j)。担子器の基部にはクランプを持つものが多く(k)、傘肉や柄には大型のクランプが目立つ(l)。 |
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帰宅後直ちにカバーグラスに胞子紋をとり、それに基づいて胞子写真などを撮った。しかし、CFカードリーダの暴走で撮影データが完全に破壊されてしまった。再度胞子紋採取を試みたが、ほとんど落ちなかった。やむなくヒダをスライドグラスに押しつけて胞子を採取した(e)。明日は、この観察結果に基づいて、科への検索表からはじめて、保育社の図鑑だけを頼りに、種名まで到達できるものかどうかやってみよう。 | |||||||||||||
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栃木県の鬼怒川温泉を歩いてきた。観光客がまき散らしたゴミを拾い集めている方から話を聞いた。今年は例年に比較してきのこの発生がとても悪いという。確かに、食用きのこの発生状況を見る限り、まさにその通りだった。しかし、食・不食を考慮せずにきのこをみるとかなり色々なきのこが出ていた。ここに掲げたのはその一部である。 |
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「きのこ雑記」のトップページを少し模様替えした。「雑記戯れ言」「顕微鏡下の素顔」は廃止した。当分の間、タイトルのすぐ下に「求む、きのこ標本!!」を表示することにした。 来年、国立科学博物館で [菌類展] (仮題) が行われる。菌類担当の細矢 剛博士は、かなり前から、展示用標本となる生きのこ採集に力を入れてこられた。しかし、きのこがなかなか集まらずに困っている。きのこ標本を作るには、良質で新鮮な野生の生きのこが必要となる。これには全国のきのこ愛好家/研究家の協力が不可欠となる。積極的に協力したいと思う。 |
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