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日( )
2009年10月9日(金)
 
ミズゴケタケモドキ覚え
 
 今日もミズゴケからでる脆いきのこの覚書。日陰(a)や日向(b)の紫褐色のミズゴケからばかりではなく、別種のミズゴケから(c)もミズゴケタケモドキが出ていた。細い柔らかなミズゴケからでているものとばかり思っていたきのこ(c)も、柄の基部をたどると、紫褐色のボテっとしたミズゴケ(d)からでていた。これらのミズゴケはいずれも、ミズゴケ節のオオミズゴケだった。コケ屋さんに叱られないよう、枝の表皮(e)と枝葉の横断面(f)の画像を添えた。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 ミズゴケから出るきのこは、7月から10月中頃まで発生を続けるようだ。ミズゴケが干からびるほどの乾燥気候でもないかぎり、たっぷり水の供給を得られる。したがって、天候による影響は少ないきのこといえる。ミズゴケタケモドキ(a〜c)とミズゴケタケ(雑記2009.7.12同2009.7.9)とは、胞子と縁シスチジアを確認しない限り、外見ではほとんど区別できない。

 今夜は東北地方(安比+α)に出発。このところよく雨も降ったので、きのこの発生状況にも少しは変化がみられるだろう。安比高原フォーレの後は、東北地方に残ってコケとキノコの観察。帰宅日は成り行きしだい。いずれにせよ「今日の雑記」はしばらくお休み。


2009年10月8日(木)
 
キミズゴケノハナもミズゴケ節から
 
 そろそろ東北(安比+α)に出かけるための荷物を作らねばならない。長期間なので、キノコもコケも、指名手配種については現地でプレパラートを作って、検鏡画面を撮影することになる。顕微鏡撮影用カメラとバッテリー+充電器を忘れないようにしなくてはならない。以前直前に慌てて準備したバッテリーが別のカメラのもので全く役立たなかったことがあったから・・・

 ミズゴケノハナを採取した同日にはキミズゴケノハナも採集した(a)。胞子や子実層、担子器などはミズゴケノハナのそれらとよく似ている(b〜d)。カサ表皮は若干違って見える(e)。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 このきのこもまた、最初にミズゴケの同定をした。オオミズゴケムラサキミズゴケから発生していた。ホソバミズゴケの群落中から発生しているキミズゴケノハナがあったので、柄の基部をたどってみた。たどりついたミズゴケはわずかに混成していたイボミズゴケだった。ムラサキミズゴケもイボミズゴケも、ともにオオミズゴケと同じミズゴケ節 Sect. Sphagnum の蘚類だ。

2009年10月7日(水)
 
冷蔵庫に放置されていたキノコ
 
 今月1日のブナ林ではウスキブナノミタケも採取したが、ナメコやブナシメジ、ムキタケ、マツタケなどの観察に追われ、ウスキブナノミタケまで手が回らなかった。冷蔵庫に放置しておいたが、今朝になってようやく観察することができた。今朝の「雑記」は冗長で写真がやたらに多い。

 保育社図鑑ではウスキブナノミタケの学名として Mycena luteopallens (Peck) Sacc. をあて、種の解説中には以下のような記述がある。

  1. 「(胞子は)若いときはやや粗面でアミロイド,成熟すれば平滑で非アミロイドとなる。」
  2. 「側シスチジアは44〜82×10〜18μm,便腹形で細い頸部をそなえる。」
  3. 「縁シスチジアは38〜46×8〜15μm,頸部は側シスチジアほど長くはない。」
 しかし、国内のブナ林でみられるウスキブナノミタケは、(2.)の側シスチジアについての記述はおおむねよいとして、(1.)の胞子、(3.)の縁シスチジアについては、わが国で実際に見られるウスキブナノミタケのそれとはかなり違う。高橋春樹氏は、ウスキブナノミタケ?として M. crocea Maas Geest. をあて、「日本産ウスキブナノミタケについては今後追加標本を用いた顕微鏡的データの再検討を要する」と記している([八重山諸島のきのこ] → [日本産クヌギタケ属の最新データ (2009年5月30日更新)])。

 胞子については「きのこ雑記」でも、2002年に「キノコのフォトアルバム」のウスキブナノミタケで素朴な疑問を記している。この頃はまだ菌類の勉強をはじめて間がない時期でもあり、観察したウスキブナノミタケは地域数や標本数が充分ではなかった。当時は縁シスチジアをていねいに観ていなかった。また千葉菌類談話会の例会の都度、故本郷次雄先生に保育社図鑑のウスキブナノミタケの記述について繰り返し疑問を呈していた。2003年以降今年まで、十数県でウスキブナノミタケを採取し観察してきた。

 観察結果は高橋氏の指摘通り、いずれもコウバイタケ節 Sect. Adonideae ではなく、アクニオイタケ節 Sect. Fragilipedes を支持していた。つまり、「担子胞子は楕円形〜やや円柱形, アミロイド; 担子器の基部はクランプを持つかまたは欠く; 縁シスチジアの形状は様々で, 平滑または 1〜数個の不規則に屈曲した粗大な指状付属糸を持つ; 縁シスチジアに似た側シスチジアを持つかまたは欠く; ヒダ実質は偽アミロイド; 傘および柄の上表皮層の菌糸は平滑または短指状分岐物に被われる.」に符合する。M. crocea Maas Geest. の特徴によく似ているといえる。

 以下に夜中から今朝撮影した画像を冗長に列挙した。採取から1週間経過したせいか胞子紋はほとんど落ちなかった。担子胞子は楕円形で平滑、アミロイド(d)。担子器の基部にクランプは見あたらなかった(s, t)。縁シスチジアは不規則に屈曲した粗大な指状〜珊瑚状の付属糸を持つ(h, i, m, n, r)。側シスチジアは便腹形で細い頸部を備える(o〜r)。ヒダ実質は偽アミロイド(f)。カサの上表皮層の菌糸は短指状分岐物に被われる(u〜x)。カサの上表皮と柄の菌糸には多数のクランプを見つけたが、ヒダ実質やカサ肉の菌糸にはクランプはごくわずかしかなかった。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(a, b) 子実体、(c) ヒダ、(d) 胞子:幼菌も成菌も平滑でアミロイド、(e) カサとヒダの横断面:フロキシン染色、(f) ヒダをメルツァー液で封入:ヒダ実質は偽アミロイド

 それにしても小型の Mycena 属菌の検鏡はやっかいだ。現地での採集時から乾燥防止のことを考えて持ち帰らないとあとで苦労する。紙袋で持ち帰った標本はすぐに乾燥して小さな丸い塊になってしまい、ヒダの切り出しに難儀する。先日採取したウスキブナノミタケはすべてチャック付ポリ袋にいれて持ち帰った。これは苔類標本を持ち帰るときと同じ方法だ。
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(g) スライドグラスに寝かせたヒダ:コンゴーレッド染色、(h) ヒダの縁:コンゴーレッド染色、(i) 縁シスチジア:コンゴーレッド染色、(j) ヒダ横断面:ヒダ実質は並列型、(k) ヒダ横断面:上半部、(l) ヒダ実質をメルツァーで封入:胞子はアミロイド

 観察中にもちょっと油断するとすぐに乾燥して丸まってしまう。観察する標本をフィルムケースにいれ、一部を切り出したらまたフィルムケースに戻して、延べ2時間ほど観察し撮影した。シスチジアとカサ上表皮については8個体ほどをチェックしたが、いずれもほぼ同様の結果だった。縁シスチジアやカサ上表皮の指状突起は透明でとても見づらい。フロキシンやコンゴーレッドでもこの部分は染まってくれないので、鮮明な画像を得ることができなかった。
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
[この行すべてフロキシン染色]: (m) ヒダ横断面にみる縁シスチジア、(n) 別タイプの縁シスチジア、(o) 子実層と側シスチジア、(p, q) 側シスチジア、(r) 縁シスチジアと側シスチジア

 ウスキブナノミタケは小さな脆いきのこなので、ヒダ横断面の切り出しは一筋縄ではいかない。最初は実体鏡の下で、複数のヒダをカサと一緒に切り出した(e)。これは比較的簡単だったが、次いでヒダを一枚スライドグラスに寝かせてから(g)、これに次々にカミソリの刃をあて、良いものだけを残してカバーグラスをかぶせた(j, k)。
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(s) 子実層と担子器、(t) 担子器:フロキシン染色、(u, v) カサ上表皮、(w, x) カサ上表皮:フロキシン染色

 日常きのこを観察した場合、1標本について40〜120枚ほどの検鏡写真が生まれる。「今日の雑記」に掲載するのは、それらのうちのごく一部だ。今日は珍しく、ひとつの標本について24枚もの画像を取り上げてしまった。冷蔵庫には今月1日に採集したきのこがまだいくつか残っている。ミズゴケから出る繊細な脆いきのこだ。安比フォーレに出かける前までに、残ったきのこの観察を済ませておきたい。さもないと、蒸れてグシャグシャになってしまう。

2009年10月6日(火)
 
青森県産のマツタケ
 
 マツタケは、すぐに食用に回されてしまうので、なかなかていねいに観察する機会はない。青森県の友人から採れたてホヤホヤの新鮮なマツタケを送ってもらった。観察目的なのでカサの開いた個体だ(a)。綿毛状の皮膜も残っている(d)。
 ヒダのつきかたは湾生だが、一部に直生のヒダもある(b, c)。しっかりしたきのこなので、ヒダの横断面は楽に切り出せる。シスチジアはない(e, f)。ヒダ実質は並列型(g)。ヒダ先端の組織はシスチジアというほどではないが、やや分化している(h)。担子器の基部にクランプはない(i)。子実体のどこをみてもクランプはない(j)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 カサ表皮は薄膜でやや太めの菌糸が匍匐状態となって連なる(k)。胞子紋は白色。胞子は類球形〜広楕円形で非アミロイド(l)。観察の終わったマツタケは標本となるので、つい今しがた乾燥器の中に放り込まれた。マツタケ臭が部屋中に漂っている。

2009年10月5日(月)
 
なぜかほとんどミズゴケ節
 
 今年はミズゴケから出るきのこをいくつも採取した。ミズゴケからでるきのこは、ほとんど例外なく柄が非常に長く脆い。柄を切断しないようにホストごと採取するのは結構難しい(b, c)。写真のきのこは、カサ径こそ6〜8mmと小さいが、柄の長さは15cmもあった(a)。
 帰宅して最初にするのは胞子紋採取の処置とホストたるミズゴケの同定作業だ。ミズゴケの方は、見るからにボテっとして、いかにもミズゴケ節 Sect. Sphagnum のものだ(d)。ミズゴケ属は7つの節に分けられ、一般に同定が難しいとされるが、ミズゴケ節のものはとても簡単だ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 定石通り枝表皮の螺旋状肥厚を確認すればミズゴケ節なので(e)、あとは枝葉の横断面をチェックすればすぐに種名にたどり着ける。ミズゴケの中では最も簡単な仲間だ。横断面をみると葉緑細胞の様子はオオミズゴケ S. palustre を示している(f)。
 きのこの方は、ミズゴケノハナ Hygrocybe coccineocrenata のようだ(g〜l)。ミズゴケから出るきのこは、だいたいが水っぽくて脆く、小さなものが多い。このため、ヒダ(h)やカサ表皮(i)の断面を切り出すのが難しい。乾燥すると小さく丸まってしまい、どこがヒダでどこがカサなのかもわからなくなってしまう。やっかいなきのこだ。菌糸にはクランプがある(l)。

 今年はこれまでに、和名のありなしを含めて、12〜15種ほどのミズゴケ生きのこを観察した。いろいろなミズゴケが混成した場所で採取したが、きのこの柄が着いていたミズゴケ個体は、いずれもみなミズゴケ節のものばかりだった。わが国で知られるミズゴケ属は上記のように7つの節に分けられる。しかし、他の6つの節から出ているきのこにはまだ出会っていない。


2009年10月3日()
 
ブナシメジ:カサ表皮の怪
 
 ブナシメジにどの学名を当てるのかは微妙な問題があるようだ。若いときや成菌のカサ表面には大理石模様が現れるとされるが(a, c)、全く平滑で模様のみられない個体も多い(d, e)。特にカサ径15cmを超える大形タイプでは、大理石模様がないほうが普通らしい(e)。
 胞子は透明でとても小さい(f)。今朝は大理石模様のあるタイプとないタイプの両者を比較しながらみた。充分成熟していたのだが、いずれも胞子紋はほとんど落ちなかった。ヒダの菌糸は類並列形だがとても細い(g, h)。いたるところにクランプがある(i)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 カサ表皮には平滑な菌糸とそうでない菌糸がみられる。平滑でない菌糸は、ちょっと見たところ、表面に色素顆粒が付着したかのように見える(k)。合焦位置をかえながらこの菌糸をよくみると、紐の周りに細い糸を螺旋状に巻きつけたような姿をしている(l)。大理石模様のないタイプではこの手の菌糸は少ない。微分干渉顕微鏡だと螺旋模様が鮮明に見える。

 今日と明日は、筑波山で行われる日本菌学会関東支部の観察会。高速道路は使わないので午前中には出発せねばならない。


2009年10月2日(金)
 
ブナ林の秋
 
 昨日amazonから1TBの内蔵ハードディスクが届いた。クラッシュしたハードディスクを取り外し、これと交換した。フォーマットを始めると1時間でも12%しか進まない。このままでは、まだ8時間以上かかると思われるので、250kmほど離れたブナ林を散策してきた。
 標高1400〜1600mのブナ林は鮮やかな紅葉とはならず枯れ葉が目立った。ただウルシの紅葉はどこも非常に美しい姿を見せていた。ブナの倒木からはいろいろなキノコがでていた(a)。ナメコ(b)、ムキタケ(c)、ブナシメジ(d)、ブナハリタケ(e)、サンゴハリタケ(f)などだ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 今年は例年に比較して雨があまりにも少なかったせいか、街道の「きのこ」看板を掲げた露天には、ナラタケとコガネタケ、ヌメリスギタケくらいしか並んでいない。店主にたずねてみると、ブナハリタケやムキタケは非常に発生が悪く、ナメコはほとんど入荷がないという。ナメコの名で並んでいるケースに入っているのはヌメリスギタケだった。

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