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日( )
2010年4月29日(木)
 
もう一つの焼け跡菌
 
 昨日に引き続いて、胞子紋が明褐色のグループを覗いてみた。きのこの大部分はひどく汚れていて(a)、きれいなものは少なく小さかった(b)。ヒダの付き方は直生〜上生〜湾生とバラバラで、いずれも胞子の両端が尖っている。肉眼的にはヤケアトツムタケとの区別は困難だ。
 昨日同様に、胞子をドライマウント(e)、水道水(f)で見たあと、ヒダの一枚をスライドグラスに寝かせて縁をみた。水道水では縁が非常に見にくいがシスチジアのあるらしいことがわかる(g)。フロキシンで染めて3%KOHで封入するとはっきりした(h)。
 ヒダ横断面をみると、側シスチジアはない(i)。次いでヒダを押し潰すと、縁シスチジア(j)、担子器など(k)がわかる。カサ表皮に粘性物質の名残は見られず、表皮の構造はいまひとつはっきりしない(l)。菌糸にも担子器の基部にもクランプがある。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
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(e)
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(f)
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(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 昨日と今日観察したきのこは、両者とも現地ではヤケアトツムタケだろうと思った。持ち帰ってたまたま複数個体から胞子紋をとったところ、色に二通りのパターンがあった。そこで、簡易顕微鏡で胞子をみると両者の胞子の形は明らかに異なっていた。もし複数個体の胞子紋をとらなかったら、すべてをヤケアトツムタケとして処理していたことだろう。

 今夜から車で、岡山県高梁市で行われる日本蘚苔類学会主催「2010年度コケフォーレ」にむけて出発。金欠病ゆえ飛行機や新幹線は利用できないので、毎度のことだが車で移動する。ゴールデンウイークは大渋滞が予測されているから先が思いやられる。
 今年度のフォーレのテーマは「石灰岩生のコケをわかる」。中国地方には魅力的な石灰岩地が広がっている。石灰岩地には、いろいろ興味深いきのこも出るとされている。暗くなったら、顕微鏡やらアイスボックス、乾燥機を積んで出発だ。帰宅がいつになるかはまるで不明。


2010年4月28日(水)
 
ヤケアトツムタケ
 
 昨日保護林の焼け跡で採取した小さな汚れたきのこは、肉眼的にはほとんど区別できなかったが、どうやら2種類が混生しているようだった。たまたま複数個体から胞子紋をとってみて分かった。胞子紋の色に明暗2種あり、低倍率でみても胞子の形に2通りある。
 そのうちの一つ、胞子紋が汚褐色のきのこ(??1)を覗いてみた(a〜d)。胞子をいわゆるドライマウント(e)、水道水(f)で封入してみると、小さな楕円形で発芽孔らしきものがある(f)。ヒダを一枚スライドグラスに寝かせて縁をみると多数の縁シスチジアがあり、KOHで黄色くなるものもある(g)。次いでヒダの横断面を切り出してみた。同じような形の側シスチジアがある(h)。ヒダの一部を押し潰してフロキシンで染めてみると、シスチジアと担子器がよく分かる。担子器の基部にも組織にもクランプがある(j, l)。カサ表皮はゼラチン質におおわれて(k)、上表皮にはざらついた細長い菌糸がみられる(l)。どうやらヤケアトツムタケのようだ。
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 もう一方のグループ(??2)は、外見こそそっくりだが、特異な縁シスチジアをもち、側シスチジアはなく、胞子の両端も尖っていた。カサ表皮には粘性がとんどないかあっても弱いようだ。捨てる前に、明日はそのきのこも見てみることにしよう。

2010年4月27日(火)
 
きのこがない!
 
 埼玉南部では、サクラ樹下にアミガサタケ、ウッドチップにヒトヨタケの仲間、ウメ樹下にシメジモドキがみられるが、川越市や狭山市の保護林ではほとんどきのこがない。一部の硬質菌を除けば、焚き火跡にかろうじて小形のきのこが見られるばかりだ。それも、多くは泥で汚れ、きれいな個体はほとんどなく、約30個のうちに二つだけ少しきれいな個体があった(a, b, c)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 さいたま市の秋ヶ瀬公園では、桑の樹下にキツネノワンが見られる(d, e, f)。ここの土手では、例年キツネノワンはみられても、キツネノヤリタケはみたことがない。なお、秋ヶ瀬公園のウッドチップ上にはきのこの姿は全くみられなかった。不順な気候のせいだろうか。

2010年4月26日(月)
 
オオシトネタケ:若い胞子紋
 
 先日採取したオオシトネタケは形こそ大きかったが、ほとんどが未成熟だった。そこで、数日間放置してからカバーグラスに伏せて胞子紋をとってみた。予測通りやはりほとんど成熟は進んでいない。胞子紋もごくわずかしか落ちなかった。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 とりあえず、少量の胞子紋を顕微鏡で覗いてみた。水で封入してみると、胞子の周囲には小さな桿菌がうようよ泳いでいる。合焦位置を少しずつずらしてみたが、特異な網目模様ははっきりしない。フロキシンで染めてもやはり事態に大きな変化はなかった。もう3〜4日放置してから再度胞子紋をとってみることにしよう。

2010年4月25日()
 
  [今日の雑記] 満9年
 
 2008年4月24日「[今日の雑記] 満7年」というタイトルの下、「雑記」を継続していくことは「かなり怪しい雰囲気となってきた」と記している。主たる理由は「マンネリ化・話題性のなさ」だ。「[今日の雑記] 満5年(2006年4月26日)」と比較するとかなりトーンが下がっている。そして友人・知人らからも「そろそろ店を畳んだらどうか」と助言を受けていた。
 あれから2年。今年の4月末をもって「きのこ雑記」は放置するつもりだった。ところが、共同運営者の一人が退職を機に本格的に菌類の勉強を開始してしまった。キノコの名ハンターではあっても、分類や生態・生理についてはズブの素人。昨日の雑記のように、「今日の雑記」はそのカメの歩み(?)の足跡メモとしの役割も担って、いましばらく続けることになりそうだ。

 今日は駒込で行われる菌類懇話会のゼミに参加する。演者も演題も非常に興味深く楽しみにしている。一方、今日は千葉中央博で今年度連続10回の地衣類上級講座があり、その第一回目。体は一つしかない。こちらは講座初回から3回連続しての欠席となる。ここ数年、土日というといろいろな集まりや講座がぶつかることが非常に多くなってきた。


2010年4月24日()
 
久しぶりのテングノメシガイ
 
 去る4月17日、千葉県の市原市民の森で行われた地衣類観察会の時に、ひとり別行動でキノコを探していたら、テングノメシガイの仲間に出会った(a)。いくつか採取したが(b)、どれも頭に剛毛らしいものはない(b, c)。頭部の切片を作ってみたがやはり剛毛はない。胞子にはどれも七つの節がある(d)。メルツァー試薬で子嚢の先端が青く染まる(e)。ほぼ透明で未成熟な胞子を収めた子嚢だと、さらにはっきりアミロイド反応がわかる(f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 子嚢先端部のアミロイド反応をみるのに、最初メルツァー試薬を滴したままの状態でみると、全体が赤褐色となってあまり美しくない。水洗いをしてみると鮮明になった(f)。
 保育社図鑑で (テングノメシガイ科の属の検索表) をたどると、子実層に剛毛がないからヒメテングノメシガイ属 Geoglossum となる。ナナフシテングノハナヤスリかその近縁種らしい (Y. A.)。

2010年4月23日(金)
 
菌学講座:平成22年度 前期
 
 菌学教育研究会の講座「菌類の多様性と分類」の平成22年度前期講座が公式に発表された。日程は、6月18日(金)〜20日(日)で、研究会の専用施設筑波センター(茨城県つくば市筑波字外輪町2074番地3〜4)を会場に実施される。講座受講の申込〆切は6月11日(必着)となっている。

問い合わせ先
〒300-4352 茨城県つくば市筑波2074-4 菌学教育研究会事務局 土居祥兌
E-mail:ydsotowa@ce.wakwak.com
〒190-0182 東京都西多摩郡日の出町平井2196-152 近藤和彦
E-mail:hinodekon@ybb.ne.jp

    [講座概要] (敬称略)
6/18(金) 顕微鏡の使い方 --油浸レンズによる観察-- 菌学教育研究会 浅井郁夫・土居祥兌
6/19() 午前:富山県のキノコ 富山県 中央植物園 橋屋 誠
   午後:開かれた地域の菌学拠点としての自然史博物館
   :大阪市立自然史博物館での模索
大阪市立自然史博物館 佐久間大輔
6/20() 接合菌類の分類 三菱化学メディエンス 三川 隆

2010年4月22日(木)
 
アミガサタケと樹液酵母
 
 アミガサタケが最盛期のようだ。狭山湖南岸の公園や所沢の公園では、新鮮でよい状態のアミガサタケがあちこちで見られる(a, b)。その傍らでは樹木の切り口や樹皮の割れ目などに鮮やかな赤色の樹液酵母がよく目立つ(c)。タケの古い切り株についた樹液酵母を見たのは初めてのことだった(d)。マツオウジは次々と新しい株が育ちつつある(e, f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 公園のウッドチップを撒いた遊歩道からは、サケツバタケ、フミヅキタケの仲間、ナヨタケの仲間が相変わらずよく出ている。キクラゲ、アラゲキクラゲ、ヒメキクラゲも元気がよい。

2010年4月21日(水)
 
大きくても未成熟
 
 狭山湖南岸の公園でサクラの腐朽木にグロテスクな子嚢菌が多数ついていた(a〜c)。中でも最も大きく育っているものばかりを5〜6個体持ち帰ってきた。願わくは子実層が充分成熟していることを・・・・。横断面を切ってみると子実層以外の部分がとても厚い(d)。
 ほとんどの子嚢が未成熟だ(e, g)。子実層托や托外皮の構造は絡み合い菌組織で、子嚢は非アミロイド(f)。あちこちから子実層を切り出してみると、ようやく一部の個体にだけごくわずかに子嚢胞子がみられた(h)。しかし、いずれも未成熟で胞子はまだほとんど平滑な楕円形のものばかり(h)。よくみると表面模様ができかかっている胞子がある(i)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 胞子の表面模様をより鮮明に見ようとフロキシンで染めてみた。しかしKOHで封入すると、表面の模様はほとんど消失してしまった(j)。あらためて水で封入して合焦位置を変え胞子をみた(k)。胞子紋は全く落ちなかった。何日か室内に放置しておくことにした。
 これはたぶんオオシトネタケだろう。フクロシトネタケやオオシトネタケの子嚢胞子は過去の雑記(2002.5.252003.4.302006.5.62008.6.13)で比較的鮮明な姿が捉えられている。子嚢菌の観察には充分成熟してやや痛み始めた老菌が必要なことをあらためて感じた。

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