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土日の二日間(5/29-/30)東京・玉川大学で行われた日本菌学会の大会に参加した。例によって、ふだんなかなか会えない人や、懐かしい顔ぶれに会えた。29日に市民講座として行われる予定だった伊沢正名さんの講演を楽しみにしていたが、演者の体調不良で急遽変更になったのが残念だった。突然の腰痛悪化とか、人ごととは思えなかった。伊沢さん、お大事に。 結果として、シンポジウムT『OMICSから表現型へ〜利用をめざして』を聞けなかったのが残念だった。シンポジウムV『いまさら聞けない分子系統入門』は、思いの外多くの参加者があり、内容もわかりやすく面白かった。大会そのものは全体として成功裏に終わったようだ。しかし、顔を出したのが運の尽きで、また新たな宿題をいくつかもらってしまった。 |
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イタチナミハタケにはよく似たきのこが多く、肉眼的観察だけでは区別できないことがしばしばある。雨後の保護林に出ていたものも濡れていて紛らわしかった(a, b)。ヒダの一部にメルツァー液をたらすと濃紫色になった(c)。カサ表皮側にも色が滲み出している(d)。 胞子はアミロイドで、表面に微細な疣があるのだが、油浸100倍でもなかなかわかりにくい(e)。あえて封入液を多めにして表面に合焦すると何となく微疣を感じられた(f)。 |
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ヒダを切り出して水封し(g)、カバーグラスの縁からメルツァー液を加えると紫色を帯びる(h)。先にメルツァー液を滴下して濃紫色に変色したヒダ(c)を切り出すと、暗紫色をしている(i)。紫色に染まるのは錯綜するヒダ実質菌糸だ(j)。 菌糸には、クランプを持ち隔壁のある原菌糸(k)、厚壁で隔壁のない骨格菌糸(l)、油脂様の内容物をもった菌糸(gloeohypha)(m)の3通りがある。gloeohypha は原菌糸の1種で、カサ表皮にもある(n)。担子器の基部にはクランプがあるのだが、うまい状態の画像を得られなかった。 外見がよく似ていても、ヒダ実質が非アミロイドのミミナミハタケ属菌が結構ある。これまでにも、類似のナミハタケを何度か覗いている(下記の雑記)。
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野田市の公園ではベニタケの仲間が出ているとの情報を得たので、久しぶりに川越の保護林を歩いてみた。雨やら夏日があったにしてはきのこの発生は芳しくない。よく見かけたのはキクラゲ(a, b)、イタチタケ(c, d)、フミヅキタケ(e, f)の3種だけで、他にはシロキクラゲ、ナミハタケの仲間、マツオウジ、ヒメヒガサヒトヨタケの仲間くらいしか出会わなかった。
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今年になって何度海に出かけたのか数えてみた。1月1日 遠州灘、同31日 内房・外房、3月17日 内房の3回だけだった。一昨年も昨年も、5月末までに6回海に出かけている。最近5〜6年間は目新しい海浜砂地生のきのこには出会っていない。発生の様子も不安定だ。かつてのように継続的な生態調査ができる機会はもうないのかもしれない。 | |||||||
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奥多摩日原から稲村岩に向かう登山道は石灰岩壁に囲まれた沢歩きに始まる。途中でオオワライタケ以外にもいくつかのキノコに出会った。コガネヌメリタケは、カサが少しばかり干からびていたが、独特の色合いがとても印象的だった(a〜e)。 ヒダを一枚寝かせてみると縁が明るい黄色の区画で彩られている(f)。倍率を上げるてみると、明るい部分の正体は縁シスチジアだった(g)。胞子はアミロイド(h, i)。ヒダの横断面を切ってみると、縁シスチジア、側シスチジアが明瞭に捉えられた(j, k)。ヒダ実質は並列形らしい。カサ表皮は菌糸が平行に走っているようだがはっきりしない。 |
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過去の雑記でコガネヌメリタケを検索すると2回ヒットした(雑記2009.5.7、同2008.6.12)。このきのこ、ヌルヌルしてコリコリしているので、ヒダやカサの切片を作るのはちょっとやっかいだ。 | |||||||||||||
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ひたすら実体鏡の下でオオワライタケのヒダを切り出していた。スライドグラスの上で切った切片は滴下してあるKOHに放り込んでいる。ある程度たまると厚い切片はとりあえず脇に広げた白い紙の上に捨てていた。昼飯準備のためゴミを片付けていて、ふと実体鏡脇の紙を見ると、何と茶褐色のヒダの周りに鮮やかな蛍光色の帯ができていた。このとき使っていた濾紙も同じような色になっている(a〜c)。
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連れ合いが面白がって、小容器にオオワライタケの断片を放り込んでKOHをかけた。しばらくすると液の色が茶褐色になった(d)。これを筆につけて紙に書くと蛍光色の文字が書けた(e)。きのこ片を捨てるために触れたティッシュペーパーも蛍光色に染まった(f)。オオワライタケの成分には、興味深い色素が含まれているのかもしれない。(Y. A.) | |||||||
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奥多摩日原の稲村岩下の沢沿いの斜面に、カサ表面に強いヌメリがある脆いきのこが出ていた。すっかり腐朽した材の脇や、落ち葉の下で散生ないし束生していた。胞子は予測よりずっと小さかった。縁シスチジアと側シスチジアは形もサイズも同じようだ。
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ヒダを一枚スライドグラスに寝かせて縁をみると、多量の縁シスチジアがある(h)。そこで安心してヒダを切り出すと(f)、縁にも側にも多数のシスチジアがある。シスチジアは上半がやや厚膜。ヌメリのあるカサ表皮は、ベロっと簡単にはがれる(b)。よく見るきのこなのだが、何なのかよくわからない。Y. A. によれば、柄の上半部の表皮にも、ヒダと同じようなシスチジアがあるという。 |
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オオワライタケの胞子は、表面が細かい疣に覆われている。しかし、胞子そのものが小さいこともあって、対物40倍レンズではわかりにくい。そこで、油浸100倍レンズを使うことになるが、この倍率になると焦点深度が非常に浅い。胞子表面の疣に合焦すれば輪郭部はボケる、輪郭部に合焦すれば表面の疣は見えなくなる。そこで、微動ノブを上下に動かしながら、頭の中で全体像をイメージすることになる(雑記2009.4.13、同2004.9.18、同2004.6.2、同2004.5.11)。
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胞子サイズを計測するには、封入液を必要最少限にして、視野の胞子がほとんど横に寝た状態になるようにしてから、胞子の輪郭部に合焦して計測する必要がある(a, b3)。 一方、一枚の画像に胞子の表面模様と輪郭部の両者を表現したい場合がある。こんな場合、(A) 専用ソフト等で複数の画像を合成する、(B) 複数の画像を列挙する、(C) 一画面を分割して複数の画像を収める、などいろいろ考えられる。 (A)は高価なソフトを使うか、高度な技術が必要となる。そして結果はやや不自然さが残る。(B)は多くの画像が並んで煩わしい、(C)は一つひとつが部分表現となって見づらい。そうなると、最も簡単で実用的なのは、(D) 封入液をやや多めにして胞子の合焦位置が異なった状態を作って撮影することだろうか(c)。ただ、この場合胞子サイズを計測するには適さない。 ヒダ切片(d, e)とヒダの縁の写真(f)もオオワライタケのものだ。子実層の様子は、きれいでも厚手の画像(e)よりも、一部欠損していても薄い画像(d)の方が正確に観察できる。縁シスチジアの有無と形もはじめから染色してしまった方がわかりやすい(f)。 |
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このところ体調がすぐれず毎日の運動をさぼっていた。ところが相棒の石灰岩生のこけ観察に同行して稲村岩コルまで登ってしまった。通常のコースタイムは登山口からコルまで約50分、けっこうな急登である。このコースを往復約5時間かけてマイペースできのこ探しと撮影? を楽しんだ。相棒はこけの写真に夢中になっているので私もゆっくりでき、まだきのこの発生が少なく採取した数も少ないので帰ってからの観察も楽だ。
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いつも日光でみていたオオワライタケとコガネヌメリタケなどに出会った。新緑とこけの美しい清流に横たわった倒木、白い石灰岩で気持ちのいい環境だった。この二つはゆっくり顕微鏡観察をしたことがないので明日からが楽しみだ。(Y. A.) 昔からのきのこ仲間でよき友でもある H. Y. さんが、何をどう血迷ったのか、数年前に突然山歩きを始めた。あれよあれよと思っているうちに「山で時々鍋焼きうどん」という妙なホームページまで立ち上げた。きっと帰宅するたびに筋肉痛になやまされているのだろうなぁ。(I. A.) |
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何故いままでやったことのない写真をとりはじめたのか、相棒と同じ土俵にあがるのだけはやめようと思っていたのにである。生標本は変化しやすい、観察記録をとったつもりでも不足がでてきたとき写真は確かに便利である。胞子やシスチジアなどの計測をするときに充分な数を測るのは大変である。どうせある器械、カメラなりパソコンなりを利用しない手はないのだ! なんて、少しでも楽になろうと思ってはじめたのだが道は楽ではない。 特に胞子の写真、小さいものほどピントがなかなか合わずに苦労している。油浸100倍の胞子のどこにピントをあわせてよいのか。表面模様があるとわかったときはまだやりやすい、発芽孔があるらしいとわかっているときも、まださがしやすいしピントをあわせやすい。どうも何かあるがそれがなんなのかわからないときが特に合わせにくい。 |
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(a)はやや甘い。(b, f)は完全に胞子の底にピントがいっている。(c)は左はじの胞子をみると担子器についていた部分(hilar appendage)がみえているのでまあまあなのかな。(d)はピントの問題だけではない。封入液の水の入れすぎと、どうも胞子の細胞壁が無色の為、染色が必要不可欠ということだ。(e)これが一番写しやすかった。ピントの合わせ方はカメラ側の操作でも工夫の余地おおいにあり、顕微鏡側で微妙に焦点深度の調節をしながら何枚も撮ることが必要だ。(Y. A.) | |||||||
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連れ合いより富士山のおみやげにもらったクロチャワンタケらしきものである(a)。ちょうどよく成熟していて胞子紋もとれ、前回(雑記2010.5.12)と違って顕微鏡観察もスムーズにすすめられた。もちろんNさんからいただいた大谷博士の比較表を片手にである。 10個体あったがすべて柄はなかった(b)。外皮層の外側の毛は非常に長く、550μm以上の長さのものもあった(c)。太さが細いものは3μm,薄膜、太いものは7.5μm厚膜、どちらも分岐は基部付近にあるのみである。 |
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悩んだのが子嚢壁の厚さである。比較表には厚膜と書いてあるが私には薄膜にしか見えないのである(e)。しかし油浸100倍でみると厚膜に近いと思える(d)。そのうち油浸でなくとも子嚢菌を沢山観察することにより判ってくるのではと思っているが。「おみやげ」は柄の有無と側糸の特長からクロチャワンタケに近いのであろう。 外皮層、内皮層をどこで区別するのかもけっこう悩みの種である。(c)をみると外側の黒い部分と子嚢盤付近を除いた部分を内皮層とすると多角菌組織と絡み合い菌組織よりなっている。多角菌組織の部分を外皮層とすればよいのか? とすれば比較表の外皮層の厚さの数値が変かな? 私が測定した外皮層の外側の厚さがこの数値に一致するのである。ていねいにみれば見るほど悩みは深くなりそうである。(Y. A.) |
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