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先日採取したオオミズゴケから出たEntoloma(a)は、ミイノモミウラモドキに近い種だった(雑記2010.6.7)。柄の基部は白色の菌糸に包まれている(b〜d)。菌糸塊の近傍の枝葉を十数枚とりはずして(e)、フロキシンで染めた(f)。菌糸組織はフロキシンで染まるが、ミズゴケの葉身細胞は染まらない。水洗いすると、よく見えなかった菌糸がはっきりしてきた(g)。オオミズゴケの枝葉背面の透明細胞には多数の孔がある。菌糸はこの孔から透明細胞に侵入している(h, i)。 |
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ミズゴケの枝葉の表面を見やすくするため、サフラニンで表皮細胞を染めた(j)。菌糸組織はサフラニンでは染まらないが、すでにフロキシンで染まっているので、ミズゴケの枝葉のどこから透明細胞の内部に入り込んでいるのかわかりやすくなる。写真からはわかりにくいが、よくよくみると、枝葉背面の透明細胞の孔から菌糸は内部に侵入している(k, l)。 オオミズゴケでは、枝の表皮細胞や茎の表皮細胞にも、その表面に孔がある。Entolomaの菌糸は、茎や枝の表皮の孔から表皮細胞の内部に侵入し、さらに木質部にまで潜り込んでいた。 それにしても、ここに掲載したような特定の合焦位置での画像では、菌糸が単に葉身細胞の表面に付着しているだけなのか、内部にまで入り込んでいるのか、これを正確に表現することはできない(k, l)。微動ノブを動かしながら見ると、ミズゴケの枝葉の表皮細胞の孔から菌糸が入り込んでいる様子がありありとわかる。当たり前といってしまえば当たり前のことだが、あらためて、顕微鏡写真より描画表示の方がすぐれて特徴を表現できることを痛感した。 |
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以前より気になっていたシロキクラゲ(a)の顕微鏡下の姿を写してみた。ゼラチン質というのはやっかいなものである。もったいない意識を捨て、おろしたての剃刀を使用しなければ切り出せない! 半乾燥状態でなんとか切り出した。しかし、しつっこく探しても担子器はあるものの担子柄、胞子はもちろん担子器に胞子がついたものもいっさいみつけることができなかった(b, c)。クランプもなんとか写真に残すことができた(d)。
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いったん完全乾燥させ、水で戻して切りだしたら、なんと胞子をつけた担子器があるではないか。しかもけっこうな数をみることができた(e)。担子柄が結構長い、でも胞子はほんの少し、やっとみつけたのは3個だけ。スケッチしてサイズの測定をしたら、ほっとしてスライドグラスを捨ててしまった。しまった! 胞子の写真をとることを忘れてしまっていた。もういちど切片をつくってみたが胞子をみつけることはできなかった。戻していたシロキクラゲで胞子紋とりをしてみると、なんといっぱいの胞子があった(f)。どうもキクラゲ類はこんな作業をしないと胞子も担子柄も充分みられないようである。不思議なキノコである(雑記2006.1.26、同2006.5.10)。 (Y. A.) |
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多摩湖畔の緑地に毎年よく出るハラタケ属のきのこは今年もよく出ている(a, b)。先日採取した個体(c)を冷蔵庫に保管したまま放置しておいたら、いずれもヒダがすっかり黒ずんでいた。 ヒダに3%KOHを滴下するとやがて鈍緑色になった(d)。ついでアニリンを滴下したところ全く色変化がない。試薬の調合年月日をみると「04/07/15」となっている(e)。そこで昨年春に調合したアニリンを滴下しなおすと、わずかに赤褐色を帯びた(f)。なぜかこのアニリン、粒状物がかなり混入している。これも有効期限が切れて試薬が結晶化してしまったようだ。 |
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胞子は非アミロイド(g, h)。縁シスチジアはのう状で薄膜(j)、カサ表皮の菌糸は色素を帯び匍匐している。担子器の基部にも、カサ肉などの菌糸にもクランプはない。「日本きのこ図版」のハラタケ属には当然のように記載されているかと思ったのだが、類似の菌は見あたらない。ツバの形状を除くと、ツバハラタケ(青木新称:No.1117)(名部版、第二巻p.573)に近似している。 | |||||||||||||
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昨日栃木県の鶏頂山で遊んだ。まるで梅雨明けのようなカラっとした晴天の一日だった。山頂にいたる径の途中の沼で、ミズゴケからきのこが出ていた(c)。ヒダを見ると淡いピンク色で柄が捻れている。ミイノモミウラモドキなどに近い Entoloma (イッポンシメジ属) のようだ(c〜f)。 念のために慎重に基部から掘り出してみると、確かに柄の基部はミズゴケの茎の途中から出ており、周辺には白色の菌糸がまとわりついていた。胞子を見ると(f)、きのこはEntoloma にまちがいない。宿主のミズゴケは、目視ではオオミズゴケ Sphagnum palustre のようだ。 |
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今朝はまず、こけの正確な同定作業を行った。茎葉(g)、枝の表皮(i)、枝葉(h)の表皮細胞の背面(j)・腹面(k)・横断面(l)、茎の表皮細胞・横断面、枝の横断面などを調べてみた。オオミズゴケにまちがいない(サフラニン染色)。 わが国で知られるミズゴケは7つの節に分けられ、そのうちきのこの発生が確認されているのはミズゴケ節のものだけだ。ミズゴケ節には茎や枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚があり(i)、それらのうち、枝葉横断面で葉緑細胞が三角形で腹面側に広く開出し、隣接する透明細胞の壁との間が平滑(l)なのはオオミズゴケの典型的な特徴だ。 過去に出会ったミズゴケ生きのこは Hygrocybe (アカヤマタケ属)、Galerina (ケコガサタケ属) が大部分で、Entoloma ははじめてだ(雑記2009.12.2、同10.5、同10.9、同5.25、等々)。 |
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ゆえあって『きのこのヒミツを知るために』という小冊子にあらためて目を通した。昨年(2009)秋に大阪市立自然史博物館で行われた特別展「きのこのヒミツ」のガイドブックとして作成されたものだが、ある意味とても画期的な冊子だとつくづく感じさせられた。 博物館などで「きのこ展」などが行われると、しばしば、それに合わせてガイドブックや解説書が別売される。たいていは美しい姿のきのこが多数列挙されて、読者をきのこ世界に導き入れようと招いている。印刷も美しく、眺めるだけでも楽しくなりそうなきのこ世界が紹介されている。 |
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ところがこの小冊子、印刷はお世辞にも美しいとは言い難く、華麗なるきのこの姿はほとんど掲載されていない。全70ページのうち、カラーページは4ページだけで、そこには系統樹とヒダの色で分けたきのこ、胞子の写真しか載っていない。本文中の写真はすべてモノクロできのこの姿は少ない。だから、いくら熟読しても、フィールドで出会うきのこの名前は覚えられない。 では何が書かれているのだろうか。これがまさに「きのこのヒミツを知るために」はどうしたらよいのか。サブタイトルに「きのこを見つめたくなったあなたのための手引き」とあるように、微に入り細に入り、普通のきのこ本や図鑑などにはほとんど書かれてはいない、しかしきのこ研究者にとっては常識ともいえる、基本的な事柄が連綿と綴られている。 『原色日本新菌類図鑑 (I)(II)』(保育社) で、故今関六也博士は「きのこそして菌を学ぶ心」((I) p.287〜296)、「読者と共にきのこを研究しよう」((II) p.282〜285)と熱い思いを語っている。計14ページではあるが、ここにはきのこと向き合い、きのこを学ぶ方法が簡潔に記されている。では、具体的にどうしたらよいのかとなると、考え込んでしまう。 『きのこのヒミツを知るために』の「あとがき」には、この小冊子が「アマチュア菌学入門書」を意図して作られたとある。執筆者らの意図が成功しているか否かは、一読してみるのがよいだろう。少なくとも筆者等の熱い思いは行間に溢れており、このようにやればよいのかと納得できる。この小冊子に書かれたように実践できたら、すでにその人は立派なアマチュア研究者だ。 |
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先日の雑記(2010.6.1)で「???」とした Psathyrella (ナヨタケ属) のきのこを覗いて楽しんだ。カサ表皮は、成菌では白味が強いが、若い菌では濃茶色をしている(b)。胞子は濃硫酸でスレート色に変わる(d)。この仲間は脆くてヒダ切片の切り出しがやっかいだ。逆に、だから薄片切り出しの練習にはもってこいでもある。縁シスチジアも側シスチジアもある。
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カサ表皮は熱気球型の細胞が、やや不規則な柵状に並ぶ。側シスチジアには、大形で先端が二股に分かれたものが高頻度で見られる。奇形なのだろうか、「???」とした所以でもある。束生する別の個体(a)にも同じような側シスチジアがあるかどうかは確認していない。コナヨタケとかアシナガイタチタケなどに近い仲間なのかもしれない。 ここ数日、複数のサイトから「リンクさせて欲しい」というメールがあった。基本的にリンクしたければリンクすればよいと思う。リンクするのにいちいち承諾など必要ない、という立場は今も変わらない(雑記2007.8.30)。 |
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先日多摩湖畔で採取したきのこを捨てる前に観察した。柄はささくれ、目立ちにくいツバがある(a, c)。よく見ればカサの表面に胞子紋がビッシリとついている(b)。胞子を水道水(d)、3%KOH(e)、メルツァー試薬(f)で封入してみた。やや厚壁で発芽孔がある。
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ヒダを一枚スライドグラスに伏せて縁をみると、小さな縁シスチジアがあり、フロキシンで染めるとややはっきりした(g)。そこでヒダの横断面を切り出し(h)、先端を見ると何とかシスチジアを捉えている(i)。側シスチジアはない。ヒダの一部を染めてから押し潰すと、縁シスチジア(j)、担子器(k)などを計測できる。担子器の基部にはクランプのあるもの、ないもの両者がある。カサ表皮は菌糸が平行に走る(l)。種の同定までは面倒なのでやめにした。きのこは廃棄処分。 | |||||||||||||
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先日東京 玉川大学で行われた日本菌学会第第54回大会では、二日目午前中に『いまさら聞けない分子系統入門』というシンポジウムが行われ、好評を博した。聴衆の顔ぶれをみるとアマチュアも多かったが、全体の2/3以上は菌類の専門家や研究者だった。しかも、居眠りをしている聴衆の姿はほとんどなかった。思えば、この企画はこれまでの菌学会の大会史上でも画期的な試みだったのではないかと思う。 このシンポジウムを立案し企画した菌類懇話会のGさんは、菌類やきのこの専門家ではなく、単なるアマチュア愛好家に過ぎない。Gさんは菌学会幹事でもあり大会実行委員の一人ではあるが一介のアマチュアである。この企画を採用した大会委員長の見識もすばらしい。多くの聴衆を惹きつけるだけのシンポジウムを成功裏に終えたことは、驚きともいえるのではないか。 Gさんは10年前から、菌学会大会の場でアマチュアの活動を積極的に紹介してきた功労者だが、今年の大会のシンポジウムはその集大成のひとつといえよう。この10年間の活動はアマチュアのレベルアップにも大いに貢献してきたのだろう。日本のアマチュアきのこ研究者のレベルや層は10年前と比較しても格段に高く厚くなってきたように思う。そしてプロの研究者を含めた菌類ネットワークには目を見張るものがある。これからのGさんの活動にさらなるエールを送りたい。若い人たちも支えてくれることだろう。 |
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日本菌学会の会報が届いた(a, b)。和文誌「日本菌学会会報 第51巻第1号」も配布されてきた(a, b)。目次を見ると「短報」掲載論文は計2本で、奇しくも両論文とも筆者は北海道在住のアマチュアだ。Tさん(c)は英文誌(Mycoscience)へも投稿するベテラン研究者、Sさん(d)は石狩郡に拠点を置き、きのこの本格的なサイトも運営する意欲的なアマチュア研究者だ。 最近の学会報(和文誌)をみても、第50巻第2号(2009.11)掲載の三重県のMさん(e)、第49巻第2号(2008.12)掲載の埼玉県のSさん(f)、第49巻第1号(2008.6)掲載の兵庫県のNさん(g)、とアマチュア研究者による論文が目に入る。これらのお三方も、TさんやSさん同様に、自然科学系の基礎教育とは無縁の出身で、いずれも地域ではきのこ指導者として活動されている。 |
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アマチュアできのこの本格的な論文誌、学術誌などへの投稿者といえば、従来は石垣島のTさん、青森県のKさん、高知県のHさん、長野県のTさんなど、ごく限られた人しかいなかった。ローカルな会報・会誌への投稿とは異なり、掲載には審査員による査読という高い壁があり、内容・表現ともに一定の水準が要求される。共同筆者に名を連ねていなくとも、論文完成にこぎ着けるまでには、多くの場合プロの研究者による支援があった。一定の水準に達してこそプロの支援も可能となる。成果発表ができるアマチュア研究者は着実に増えてきている。 | ||||||||
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多摩湖畔の緑地を歩いてみた。いろいろなきのこが出てきた。ナラタケ属(a, b)、ハラタケ属(c, d)、チャヒラタケ属(d, f)、???(g, h)、センボンイチメガサ属?(i, j)、ウラベニガサ属(k, l)、マツオウジ、ヒメカバイロタケ、モリノカレバタケ類、シロキクラゲはよく出ていた。 |
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大形で目につきやすいきのこは、抜き取られ、ちぎられ、踏みつけられたものがめだった。日曜日に多くの人が入ったのだろう。なぜかベニタケ類は非常に少なく、崩れ始めたり干からびたものだけがいくつか見られただけだった。蚊に悩まされる季節が始まった。 | |||||||||||||
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