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日( )
2011年9月30日(金)
 
胞子が偽アミロイド
 
 先日乱暴にもハイイロシメジと書いて、その後ハイイロシメジ近縁種と修正したきのこについて、メモをアップしておくことにした(雑記2011.9.24)。嵐のため表皮の一部が強風で削り取られてしまった群れもあった(a)。若い菌では柄は中実だが、成菌になると中空になる(c)。胞子(e)は偽アミロイド(f)。シスチジアは縁にも側にもなく、ヒダ実質は並列気味に錯綜している(h)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 菌糸にはクランプがあり、担子器の基部にも多くがクランプをもつ。カサ表皮には淡茶色の菌糸が匍匐したり立ち上がったりしている(k, l)。ハイイロシメジなどと同じカヤタケ属 Clitocybe のきのこには間違いないが、種名にまではたどりつけなかった。なお、今日の薄片切り出しなどは乾燥標本(d)から行った。胞子は先日カバーグラスに採取した胞子紋から得た。

2011年9月29日(木)
 
胞子の形が微妙に
 
 南会津で採取したネッタイベニヒガサには変種ないし品種レベルの差があると思える子実体もあった(a〜d)。他の子実体群とは少し離れた場所で採取したもので、肉眼的には、やや小振りで全体に色が黒っぽく、カサの鱗片がより顕著だった。
 ミクロレベルでみると、胞子の形に若干の相異がある。胞子が楕円形というよりも、レモン形に近いものや両極がやや尖ったものなどが多く、Q比(縦横比)も少し違う(e)。担子器に大小があることは同様だが、両者の中間的サイズの担子器がよく目立つ(f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 ここに取り上げたきのこも、先にネッタイベニヒガサとして取り上げたきのこも(雑記2011.9.26同2011.9.27)、ともにオオミズゴケなどが群生する水路脇の笹藪に出ていたもので、周辺はブナの混じったコナラ、ミズナラが混生する広葉樹林だ。
 
[補足] 念のために両者のカサ表皮と胞子を列挙してみた。上段が多く群生していたネッタイベニヒガサ。下段がそこからやや離れた場所に少数まとまって出ていたもの。
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(g')
(g')
(h')
(h')
(i')
(i')
(j')
(j')
(k')
(k')
 こうやって並べてみると、その差異がわかりやすくなった。

2011年9月28日(水)
 
異形担子器の配置
 
 今朝もネッタイベニヒガサを覗いて遊んだ。昨日の胞子に引き続いて、担子器を取り扱った。
 大小の担子器は子実層の中でどのように分布しているのだろうか。ヒダを横断面で切り出してみても、よく分からない(a)。大きさがあまりにも違うため複数の合焦位置で確認しないと比較が難しい。さらに大小の担子器に偽担子器なども重なり合ってより見にくくなる。
 なるべく薄切りにして適度に染色して比較してみると、小型担子器はヒダの横断面で、先端部から中程にかけて密度が高く、大型の担子器はヒダの中程から基部にかけて密度が高いように見えた。しかしヒダ先端にも大型担子器はあり、ヒダの基部にも多数の小型担子器がある。親ヒダと子ヒダ、孫ヒダでも傾向は異なる。子実体によっていくつかのパターンがあるようだ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 大小の担子器を同時に一枚の画像に写し取るため、子実層の部分を引きはがしてフロキシンで染めてKOHでバラして撮影した。低倍率でそれをみると大小の担子器の混在率がなんとなくわかる(b, c)。倍率を上げるとサイズの違いを露骨に感じる(d, e, f)。

2011年9月27日(火)
 
異形胞子の混在比率
 
 一昨日南会津で採取したHygrocybeには大型と小型の胞子が混在している。保育社図鑑によればネッタイベニヒガサ H. firma となる。西日本では珍しくも何でもないが、関東以北では採集したという話はあまり聴かない。本標本を採取したのは福島県昭和村(alt 1000m)だが、一昨年同じ福島県の土湯峠(alt 1240m)でも採取している(雑記2009.8.4)。
 和名の「ネッタイ=熱帯」から推察できるように、スイスの菌類図鑑やヨーロッパのキノコ(FUNGI EUROPAEI) Vol.6の "HYGROPHORUS" には掲載されていない。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 大型胞子と小型胞子の混在比率はどうなっているのだろうか。胞子紋から大小の胞子数をカウントすればよいと思われるが、これが簡単にはいかない。カバーグラスに採取した胞子紋ひとつみても、場所によって大小の混在比率が大きく異なっている(a〜c)。倍率を上げるとカウントはしやすい(d, e)。大小の胞子は長さ・幅で倍以上も異なり、重さでは8〜20倍の差がありそうだ(f)。何らかの工夫をしないと、両者の混在比率をだすのは無理のようだ。

2011年9月26日(月)
 
赤色のアカヤマタケ属
 
 24日の「雑記」で「ハイイロシメジ」と表現した部分を「ハイイロシメジ近縁種」と訂正した。これは不適切な断定的表現だった。正確に何という種なのか現時点ではよくわからない。
 昨日はam3:00にネット環境が遮断され、夜8:30以降もずっと繋げることができなかった。今朝何度か悪戦苦闘した結果、ようやくつい先ほど(am7:50頃)ネット環境が復活した。

 昨日は南会津の山を歩いていた。主たる目的はアカヤマタケ属 Hygrocybe のキノコの採取だった(a〜f)。二年前にあまり程度のよくない子実体を2つだけ採取したが、標本としては残せなかった。よく似たキノコはやはり二年前に土湯峠付近でも採取したが、これも標本にするには少量すぎた(同2009.8.4同2009.8.3同2009.9.27)。
 昨年も土湯峠の同じ場所を同じような時季に訪問したが、採取できなかった。今回の再訪問は運良く、二年前のものと同じと思われるきのこに出会うことができた。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 この赤色のHygrocybeにこだわってわざわざ片道250Kmの距離を走り山の中を歩いたには意味がある。このきのこは大小二種類の胞子をもち、担子器も大小二種からなる。写真のきのこは、まだ胞子紋から胞子をみただけだが、大小二種の胞子が混じっていることを確認できた。保育社図鑑では和名の頭に「ネッタイ」とつくものにそういった特徴が記されている。

2011年9月25日()
 
キツネノカラカサ属のキノコ
 
 23日(祝)の千葉菌の観察会で採集されたキツネノカラカサ属のキノコについてのメモ。胞子紋は白色。胞子は楕円形で、4.9〜5.6 x 2.3〜3.0μm、Q比(長辺/短辺)は1.6〜2.1で平均1.8、偽アミロイド。側シスチジアは無く、縁シスチジアが無数にあり、薄膜で棍棒状。担子器の基部には[クランプあり]が多い。4胞子性。カサの上表皮は細長い菌糸が連なり、先端は軽く膨らむが類球形にはならない。菌糸にはクランプがある。キツネノカラカサ属 Lepiota までは間違いない。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 採取標本、(b) 成菌と幼菌、(c) 成菌頭部、(d) 成菌断面、(e) 幼菌頭部、(f) 幼菌断面、(g) 胞子:水封、(h) 胞子:メルツァー試薬、(i) ヒダの横断面:右上は先端、(j) 寝かせたヒダの縁、(k) 縁シスチジア:フロキシン染色、(l) カサ上表皮の菌糸

 観察会のラベルは「トゲミノカラカサタケ?」と自信なげに記されていた。トゲミノカラカサタケ L. calcicola とは肉眼的姿がやや異なり、ミクロレベルでも胞子サイズと縦横比も違い、カサ表皮の菌糸構造も異なる。では何だろうか。この仲間は種類が多く、いまだ多数の未報告種があるとされる。このきのこも、どうやらまだ和名はないのかもしれない。

2011年9月24日()
 
未だほとんど夏のきのこ
 
 昨日、早朝内房の浜を観察してから房総半島中部の神社林をみた。その後、泉自然公園で行われた千葉菌の観察会に参加した。帰路は再びアクアライン経由となった。
 内房の浜は今年3月11日の津波で被害を被ったが、先日の台風16号直撃時の大潮の被害はさらにそれを上回るものがあった。3月の津波被害を免れた標高の海浜にも漂流物が散乱し、作業小屋や漁船が壊れていた(a)。当分の間はきのこの発生も見込まれないだろう。
 房総半島中部の神社林では、暗いタブの樹穴のにマユハキタケが群生していた(b)。すぐ脇の腐葉土の斜面には広範囲にハイイロシメジ近縁種が群生していた(c, d)。
 千葉菌の観察会には民放テレビ局が取材に来ていた。きのこは少なかったが、多くの参加者があったので、かなりの数のきのこが集まった。全般的に大型菌は少なく、多くが夏のきのこだった。アセタケの仲間に、傷つくと赤色を帯びたり、全体が赤褐色という興味深いものがあった。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 帰路は千葉東金道路の高田ICから高速道路に入ったが、すぐに京葉道路がひどく渋滞していることがわかった。選択肢はあまりない。一般道に降りるか、渋滞に身を任せるか。いずれにせよ、順調に流れているときとは比較にならないほどの時間と疲労が待っている。
 千葉東ジャンクションまで来たところで、急遽東京とは逆方面に経路をとった。再び房総半島を南下して木更津JCから東京湾アクアラインに入った。首都高速は複雑に入り組んでわかりにくいが、その反面経路の選択肢も多い。この選択は正解だった。一部にやや渋滞したところもあったが、全般的によく流れており、予測より遙かに早く帰宅できた。

[補足:2011/9/26] 先に「ハイイロシメジ」と表現していた部分を「ハイイロシメジ近縁種」と修正した。この雑記をアップした時点では、まだ正確な検鏡や試薬反応などはみていなかった。拙速な種名提示であった。


2011年9月22日(木)
 
ムラサキフウセンタケ
 
 富士山のシラビソ林にはムラサキフウセンタケがよくみられる。柄の基部が大きく膨らんでいる姿が何とも愛嬌を帯びている(a, b)。これも1週間以上冷蔵庫に放置していたので、すっかり駄目になっているかと思ったが、意外や意外! まだ比較的よい状態を保っていた(c〜e)。
 胞子には胞子盤がみられるのだが、注意深くみないとわかりにくい(f)。ヒダの縁にも側にもほぼ同じような姿形のシスチジアがある(h, i)。シスチジアには透明なものと濃色の両者があり、縁には濃色のタイプが多く、側には透明なものが多い。担子器の基部にはクランプのないものが多かった(j)。カサ表面の組織は水道水で封入すると暗紫色だが(k)、KOHで封入すると褐色に変わってしまう(l)。まだ間に合うので、このきのこも乾燥標本にすることにした。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 昨日午後〜夕方は台風15号の直撃でひどく荒れた。埼玉県南部の団地4階では、強い風雨のため、ベランダ側の窓ガラスが今にも割れんばかりだった。明日は千葉菌の採集会。台風のもたらした雨効果はまだ考えにくいが、何か興味深いきのこも顔を出しているかも知れない。
 明日の千葉菌に参加するためには、何が何でも今日中にギリシア語課題の残り10問を片づけねばならない。今日はいよいよきのこ遊びをしている時間はなさそうだ。

2011年9月21日(水)
 
担子器に2胞子と4胞子
 
 富士山のシラビソ林で朱色のアカヤマタケ属 Hygrocybe のきのこを採取した。冷蔵庫に保管したままほぼ1週間が経つ。そろそろ急激に傷みが激しくなりそうだ。週末に向けて尻に火がついているギリシア語ゼミ。しかし、なぜか他の作業をやりたくなる。合間にチラッとみた。
 担子器は2胞子性のものと4胞子性のものが混在し、同一子実体でも、ヒダの位置によって、両者の比率が異なる。あるヒダの部位では殆ど2胞子性担子器しかない。また、4胞子性の担子器ばかりが目立つ部位もある。いくつもの子実体について担子器の確認をしたが、どれも同じ傾向だった。相対的にみれば、多くが2胞子性で少数の4胞子性担子器をもつ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a ,b) 朽木やコケの中から発生、(c) ヒダ側、(d) 標本:柄の基部は黄色、(e) カサ縦断面、(f) カサ表面、(g) 胞子:メルツァー、(h) ヒダ実質、(i) 担子器:フロキシン、(j) ヒダ実質の菌糸:クランプあり、(k, l) カサ表皮

 菌糸にはクランプがあり、胞子は非アミロイド。保育社『原色日本新菌類図鑑』の検索表をたどると、素直にアカヌマベニタケに落ちた。種の解説を読むとどうやらアカヌマベニタケとしてよさそうだ。廃棄処分のつもりだったが、とりあえず乾燥機にかけた。
 ふと机上をみれば、ギリシア語のテキストと開いたままの分厚い辞書。さらに動詞活用表を前に、ノートはいまだ真っさらだ?!?!

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