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日( )
2012年11月9日(金)
 
托外皮に特徴:カバイロチャワンタケ属
 
 実習用教材に供するため標本として残さないPachyella(カバイロチャワンタケ属)の子嚢菌を、念のために覗いておいた。現地で既に見るからに子実層表面が崩れ始めていたが(a)、胞子の射出にあわせて、カバーグラスを近づけるとわずかに胞子が付着した(b)。
 Pachyellaだとすれば、托実質はゼラチン質に包まれた絡み合い菌糸からなり、托外皮が独特の姿をみせてくれるはずだ。そこで、子嚢盤を何ヶ所か薄切りしてみた(c, d)。予測通り子実層は崩れているが、托外皮の特徴はよくでている(e)。なお、この子実体では、子嚢のメルツァー反応はマイナスで、側糸の色素が紫褐色に変色した(f)。[cf:雑記2012.5.24同2012.5.25]
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日近くの石森山の麓を散策した折りにみられたきのこのメモ。沢沿いの遊歩道には至るところにハタケシメジ(g)。アカモミタケ(h, i)もわずかに。ヤマブシタケ(j)がまだでている。子嚢菌のクロハナビラタケを探していたら、クロハナビラニカワタケ(k)ばかりだった。今年の気候の異常さを象徴するかのように、カバイロツルタケ(l)、ドクツルタケなどが出ていた。
 遊歩道基点の駐車場わきには綺麗なコケ広場があったが、イノシシのため無残な姿になっていた。尾根スジにはいたるところにセンブリの花が咲いていた。
 
(g)
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(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今日から日曜日(11/11)まで神奈川に出かけるため、明日と明後日は「今日の雑記」もお休み。子嚢菌観察の実習が主目的だが、先日ブナ林で採取した子嚢菌(雑記2012.11.6)を観察用の生標本として使うことになる。アイスパックケースに容れて持って行こう。

2012年11月8日(木)
 
ムラサキゴムタケ:分生子が同居
 
 ブナの腐朽木に出ていたムラサキゴムタケ属の盤菌を覗いてみた(a)。間欠的に胞子を射出するのでそれをカバーグラスで受けた。多量の胞子が付着したが(b)、隔壁をもつものや分生子を芽生させたものは見つからなかった(c)。ムラサキゴムタケ属ではないのかと一瞬思ったが、とりあえず子嚢盤の薄片を作ってみた(d)。
 托随層は絡み合い菌糸、托外皮は円形菌組織ないし表皮状菌組織(e, f)。子実層はとても見にくい(g)。軽く押し潰してメルツァー試薬で封入した(h)。フロキシンでも子嚢頂部の肥厚と頂孔はよくわかる(i)。胞子紋には混じっていなかったが、子実層をよくみると、分生子だらけの子嚢とか、両端や隔壁から分生子を生じている胞子が、多数混在していた(k, l)。
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
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(h)
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(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 子実体、(b) 胞子:対物40倍、(c) 胞子:対物油浸100倍、(d) 子嚢盤縦断面、
(e, f) 托随層と托外皮、(g) 子実層、(h) 子嚢:メルツァー、(i) 子嚢:フロキシン、(j) 側糸、(k, l) 胞子と分生子

 2005年11月28日の雑記では、托実質と托外皮層をごっちゃにして、両者とも「絡み合い菌糸ないし表皮状菌糸組織」と書いてあるが、正確には托実質は絡み合い菌糸であって、托外皮は絡み合い菌糸ではない。それにしてもこのゼラチン質の子嚢盤の薄片作りはなかなか思い通りには行かない。とりあえず広義のムラサキゴムタケとしておこう。

2012年11月7日(水)
 
大好きなキノコ
 
 小さい椀型の可愛いきのこにはいつも惹かれてしまう。キノコに再び向い合って4年目になるが感心のあるキノコ、今後も継続して観察しようと思うキノコの仲間が決まってきたようだ。ヤル気があまりなくてもチャワンタケの仲間に野外で出会うとカメラをとりだしてしまう。
 近所の溜池のモミ混じりの林の崖に発生していた。かなり暗くてしかも急斜面のため、現地での撮影は断念した。久しぶりに出会ったシロスズメノワンらしきチャワンタケ仲間である。帰宅後廊下で撮影し早速顕微鏡観察をした。好きなモノだと観察スピードもあがるが当然夕飯は遅れることになるのだ。
 胞子に微いぼがあり、剛毛が托外被層から発生しているのがわかる。子嚢盤を崩さず切片を作るのは難しいがとりあえず構造がわかる写真は撮れた。次回はシロスズメノワンの群生がみたいものだ。 (Y. A.)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 イノシシがあたりをほじくり回し、側溝に多量の泥と石を落とした。今朝は側溝の掃除に2時間ほどとられてしまった。側溝の周囲はボコボコになってかつての面影もない。 (I. A.)

2012年11月6日(火)
 
子嚢菌を求めてブナ林へ
 
 今週末の実習に向けて子嚢菌を求めて60〜70kmほど離れたブナ林に行ってきた。ムラサキゴムタケの仲間(a)、アラゲコベニチャワンタケの仲間(b)、チャワンタケの仲間(c)、カバイロチャワンタケの仲間(d)、やたらに大きなチャワンタケの仲間(e)などを得ることができた。
 まさか11月にヒメスギタケに出会うとは思わなかった(f)。ブナ林ではムキタケ(g)があちこちで見られた。ヌメリスギタケモドキ(h)、ツキヨタケ(i)、ウスキブナノミタケ(j)などにも出会った。チャナメツムタケは非常に少なかった。途中のカラ松林ではキヌメリガサも出ていた。
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
(i)
(j)
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 いわき市の南東部から楢葉町までの浜通りでは、広葉樹林も針葉樹林も林床がすっかり乾燥していて、きのこの姿はほとんど見られなくなってきた。アカツムタケやチャツムタケはあるが、子嚢菌はニクアツベニサラタケ、ベニチャワンタケモドキがごくわずかに見られるばかり。その点、ブナ林の高い保水性が子嚢菌の棲息環境を保っていたようだ。

2012年11月5日(月)
 
ヒダ実質がアミロイド:イタチナミハタケ
 
 久しぶりにイタチナミハタケを観察することになった(a〜f)。胞子表面の微細なイボは油浸100倍レンズでじっくり見てもわかりにくい(g, h)。ヒダにシスチジアらしき構造はみられない(h)。ヒダ実質のアミロイド反応は明瞭にわかる(h, i)。カサの縁では毛は少ないが(j)、中央部は毛だらけだ(k)。カサの毛をはじめ組織にはクランプがいたるところに見られる(l)。
 急にきのこが少なくなってきた。家の周りではナラタケ、スギエダタケくらいしか見られない。
 
(a)
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(b)
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(c)
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(e)
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(g)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
 寒くなってきた。古い民家は広々としている反面、冷気も充ち満ちている。数日前から台所で小型電気ストーブを使い始めた。顕微鏡室にも暖房を入れる準備を開始した。

2012年11月4日()
 
まだ出ていて驚いた:千本狐盃と弘法筆
 
 虫草を求めて友人ら三人で川内村に入った。驚いたことにセンボンキツネノサカズキ(a, b)やらコウボウフデ(c, d)がまだとても良い状態を見せてくれた。例年ならいずれも10月半ばには姿を消しているものだ。すぐ脇ではクリタケがあちこちに群生していた(e, f)。スッポンタケ(g)、モエギタケ(h)、シモフリシメジも最盛期のようだった。
 警戒区域の線引き位置が変更になっていて、富岡町の大倉山森林公園に入れるようになっていた(i)。その後、林道という林道を走り回って、広野町のモミ林に下りた。アカモミタケの発生が非常に悪い(j, k)。林道の真ん中に若いコガネタケが束生している姿は滑稽だった(l)。
 
(a)
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(c)
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(g)
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(i)
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(j)
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(l)
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 目的の虫草はすでにカビに侵されていた。センボンキツネノサカズキ、クリタケ、コガネタケは放射線検出用に回し、コウボウフデには全く手をつけずに写真撮影だけをしてきた。

2012年11月3日()
 
希・羅の語彙を増やすために
 
 『学名論』というタイトルの本が届いた。著者は昆虫学者で各種の命名規約やラテン・ギリシャ語に造詣の深い平嶋義宏氏。菌類界の故勝本 謙氏のような存在だ。書名の「学名論」から推測すると、学名とはなんぞや、学名の意義、学名の歴史、学名の役割、などについての議論のように思える。しかし、本書はそういった内容ではなく、学名の造語法について詳細かつ具体的に述べ、そのベースとなっているギリシア語・ラテン語の語彙を増やすことを目的とした実用書だ。一言でいえば『菌学ラテン語と命名法』の読み物風動物版だ。
 
(a)
(a)
(b)
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(c)
(c)
(d)
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(e)
(e)
(f)
(f)
 サンスクリット由来の学名があることは初めて知ったが(d)、細菌の属名のCedeceaの造語法には恐れ入った(e)。「囲み記事」が面白く、最初にこの部分だけを一気に読んだ。本書は手元に置いて辞書のように使うのがふさわしい。菌類関係者にとっても、ことあるごとに参照するに値する良書だと思った。2012年9月20日発行、東海大学出版会、定価3,200円。

2012年11月2日(金)
 
きのこはかなり少なくなったけれど・・・
 
 自宅から10分ほど歩くと農業用の溜池にぶつかる。稲の収穫期には水を落とすので、今は池底を歩くことができる。すぐ脇にはモミ、カヤの混じった広葉樹林の斜面が広がる。溜池脇の径を通らず、底を歩いて斜面にとりついた。この斜面も散歩コースの一つだ。
 きのこの姿はずいぶん少なくなった。しかし、ミネシメジがいたるところにでている(e, f)。単生、束生、散生と発生模様も様々だ。気をつけて歩かないと、ヒメサクラシメジ(c, d)やコケイロヌメリガサ(a, b)踏みつぶしそうになる。一見ハタケシメジによく似たきのこ(g, h)、フウセンタケモドキに似たきのこ(i, j)、キホウキタケに似たきのこ(k)などにもであった。ベニチャワンタケモドキ(l)もまだ新鮮な状態がみられる。少なくなったとはいえ、まだきのこの姿がある。
 
(a)
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(c)
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(i)
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 庭には相変わらずナラタケ類、ハタケシメジ、ムジナタケ、テングタケの仲間がでている。その一方で、Parasora(ヒメヒガサヒトヨタケ属)やConocybe(コガサタケ属)は見られなくなった。

2012年11月1日(木)
 
とても成長が遅い
 
 家の近くの遊歩道でテングノメシガイの仲間を採取したのは、ちょうど一週間前の10月24日だった(a, b)。約一日かけて胞子紋をとった。多量に胞子は落ちたのだが、いずれもすべて未成熟だった(c, d)。子実層にも成熟した胞子は見られなかった(e, f)。翌日再び観察したところ、一部の子嚢にだけ、わずかに成熟した胞子ができはじめていた(g, h)。
 あれからほぼ一週間。昨日再び現地で採取してきた(i)。先週よりやや成長しているように見えた。しかし、やはりまだほとんどの子嚢には未成熟の胞子しか入っていなかった(j)。胞子紋にはごくごくわずかに成熟胞子も混ざっていた(k, l)。胞子の節の数はいずれも7〜12。Geoglossum(ヒメテングノメシガイ属)のきのこには間違いないのだが、種名まではわからない。
 
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 発生地は家から近くなので、20数本のうち最もよく成熟していそうに見える子実体を1〜3個ほど採取したのだが、あまりにも成長が遅いのに呆れてしまった。

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