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日( )
2012年5月31日(木)
 
いわき市転居から四ヶ月
 
 今年の1月25〜26日に埼玉県川口市から福島県いわき市に転居して既に四ヶ月を経過した。鉄筋9階建ての公団マンション4階から、田園地帯にある古い木造民家への転居だった。川口市では京浜東北線の蕨駅まで徒歩7〜8分の環境。一方、いわき市の古民家は常磐線の草野駅まで車で10分、自転車なら20分、徒歩なら50分の位置にある。
 川口市時代は一階に降りればそこはスーパーマーケットだった。だから、冷蔵庫は日常ほとんど空でよかった。一方いわき市の古民家の周辺は田圃ばかりで商店はない。買い物には4kmほど離れたスーパーマーケットまで車を6〜7分走らせる必要がある。
 以前はきのこを観察するのに少なくとも20〜35km離れた緑地まで車か電車で出かけなくてはならなかった。車を使うと早朝でも1.5〜2時間、電車・バスだと2時間は必要だった。一方、今はまず自宅の庭と裏山を歩く。また、30分も歩けば自然公園の遊歩道起点に達する。車を15〜30分も走らせればいくつもの観察適地に到達する。
 転居したことで不便になったり困ったことは今のところほとんどない。顕微鏡観察やデータ整理には専用の部屋を設定できたし、標本専用室もできた。家の目の前には田圃が一面に広がっている。集落の人々とのつながりも満足できるものだ。
 転居して唯一のデメリットは、悪天の休日でも昼間からビールを飲むことができないこと。ちょっとした買い物にも運転が必要。だから夕食前まではアルコール厳禁だ。

2012年5月30日(水)
 
やはり難しい:ヒナノヒガサ
 
 小さくてもろいきのこは、できれば顕微鏡を用いた観察は遠慮したい。ヒナノヒガサ(a〜c)もそんなきのこの一つだ。ちょっと触れただけで簡単に潰れてしまう。過去にも何度か面白半分、興味半分に、検鏡を試みている(雑記2009.6.18同2008.6.10)。
 今朝は5月後半に採取した乾燥標本(g)から切片を作ってみた。上段の画像(a〜f)は採取した当日に撮影したものだ。胞子紋は白色なので青色をバックにした(d)。
 
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 ヒダ切片をよくみると、縁と側に同じような姿形のシスチジアがある(h, i)。カバーグラスの脇からフロキシンとKOHを流し込んで、あふれた液を濾紙で吸い取ると、切片が潰れて両シスチジアが明瞭になった(j)。さらにこれをカバーグラス上から圧を加えてバラした(k)。かさ表皮の切り出しは何とか成功したが、カサシスチジアがなぜか消えていた(l)。
 きのこのヒダやかさ表皮のプレパラートを作るにあたっては、実体鏡の下でピンセットを使ってパーツを取り外して、同じく実体鏡の下でピスに挟み、これをボルトナット製簡易ミクロトームに装着した。切り出しはやはり実体鏡の下で、片刃カミソリを使って行なった。

2012年5月29日(火)
 
チャツムタケ? or キツムタケ?
 
 川内村の公園で棄てられた古いマツ材からでていたGymnopilus(チャツムタケ属)を少していねいにみた。現地ではチャツムタケではないかと思っていた(雑記2012.5.26)。
 ただ、これまで見てきたチャツムタケは、柄の表面が暗褐色でなんとなく汚らしく、ヒダにKOHを滴下すると直ちに黒色に変色する(雑記2007.10.24)。これに対して、柄の色は明るい褐色であり(b)、KOHを滴下しても暗褐色になるばかりで黒変しない(d)。胞子、シスチジア、ヒダ実質、担子器、かさ表皮、柄の表皮などの形質状態はほぼ同様だ。
 
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(a) 子実体、(b) 裏面、(c) 断面など、(d) KOH反応、(e) 胞子:dry、(f) 胞子:水道水、(g) ヒダの縁、(h) ヒダの断面、(i) 縁シスチジア:フロキシン染色、(j) かさ表皮:水道水、(k) かさ表皮:KOH、(l) 柄の表皮:KOH

 子実体全体が明褐色であること、かさ表皮がKOHで褐変すること、カサ肉が黄色ではなくほぼ白色〜淡褐色、茎肉が赤褐色や濃褐色ではなく淡褐色であること、胞子サイズがチャツムタケにしてはやや大きいこと、などからキツムタケとするのが適切かもしれない。

2012年5月28日(月)
 
きのこの発生が増えてきた
 
 昨日は終日穏やかによく晴れ上がった。午前中に県立いわき公園を、午後に広野町のモミ林を歩いてみた。いわき公園ではヒロハシデチチタケがよく出ていた(a〜c)。重なるように出ていたきのこの下側のカサ表面には胞子紋がくっきりと残っていた(b)。ケヤキ樹下にはハルシメジ類が見られた(d)。コケの間からはヒナノヒガサ(e)、ケコガサタケ属のきのこが多数でていた(f)。遊歩道脇にでていたハタケシメジは昼食の具になった(g)。
 広野町のマツ混じりのモミ林ではウスタケがやたらに目立った(h, i)。モミの倒木からは白色で子実層が管孔状〜針状の皮質のきのこがよく出ていた(j)。杉枝からはホウライタケ属らしき小さな白色のきのこがいたるところからでていた(k, l)。
 
(a)
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 近くのシイタケほだ場では相変わらず、オオフクロタケ、カバイロチャワンタケ、ヒメスギタケ、ウラベニガサ、イタチタケがいたるところに見られる。一方、庭の草地からは相変わらずハタケキノコがでている。また、梅樹下にはハルシメジが日々大きく育ちつつある。

2012年5月27日()
 
小さくて冴えないきのこ
 
 大きくてしっかりしたきのこは、一般的に顕微鏡で覗いても単調で、これといった特徴の少ないものが多い。それに対して、小さくて見かけが冴えないきのこには、ミクロの姿が非常に興味深いものがある。ヒメスギタケもそんな冴えないきのこの一つだろう。5〜9月頃に古いシイタケほだ木を探すとよく見かける。自宅近くのシイタケほだ場に、幼菌から成菌までよく出ていた。
 
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(a) 成菌と幼菌、(b) 幼菌、(c) カサ裏、(d) 縦断面、(e) 胞子紋、(f) 胞子、(g) ヒダの縁、(h) ヒダ断面、(i) ヒダ断面の縁、(j) クランプがある、(k) かさ表皮、(l) 柄の表皮

 縁シスチジアの有無を確認するには、ヒダを一枚取り外してそのままスライドグラスに寝かせて縁を見るのが簡単でよい(g)。胞子が邪魔をして見えない時は、何度か封入する水を交換すると、胞子が流されてわかりやすくなることもある。分厚いヒダの場合、視野がやたらに暗くなるので、KOHで封入して軽く押しつぶすとわかりやすくなる。
 いわき市に転居して最初のヒメスギタケだ(雑記2009.9.17同2007.9.29同2011.7.2)。

2012年5月26日()
 
早朝の川内村散歩
 
 昨日朝、川内村の平伏沼(へぶすぬま)、イワナの郷、館山公園などを回ってきた。川口市に住んでいた頃に多摩湖あたりまで行くのと距離的にあまり変わらない。しかし、首都圏と違って交通量が少なく信号もほとんどないので、時間的には一時間少々で到着した。
 まだきのこはとても少ない。遊歩道の脇にエツキクロコップタケ(c, d)がいまだに多数出ていることに呆れた(雑記2012.5.6)。腐朽木やリターからAgrocybe(フミヅキタケ属)がよく出ていた(e, f)。落ち葉からはMarasmius(ホウライタケ属)がよく目立った(g, h)。Gymnopilus(チャツムタケ属)も何種類か見られた(i, j)。スジオチバタケ(k)、タマチョレイタケ(l)なども目についた。
 
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 林道上戸渡広野線は三週間前には崩壊と落石のため「通行止め」だった。柵を開けて「自己責任」で入り込んだものの、路面はひどく荒れ、ついに途中でにっちもさっちも行かなくなった。Uターンするのも容易ではない。このときはやっとの思いで引き返してきた。
 昨日の帰路、ふと見ると国道399号線からの林道入口に「通行止め」の柵がなかった。例によってまた途中で突然通行不能になることを覚悟してこの林道に入った。先日の到達点から先はきれいに整備され、たった今改修工事が済んだばかりのようだった。いわき市の夏井川経由で帰宅予定だったが、広野町の浅見川沿いの林道から帰宅する結果となった。

2012年5月25日(金)
 
カバイロチャワンタケ属補足
 
 昨日の [Y. A.] によるPachyella(カバイロチャワンタケ属)の記事について若干気になったので、再び現地に出向いて新たな子実体を採取してきた。5〜6個を採取したが、成熟していたのはそのうちの一つだけだった。その子実体を中心にあらためて検鏡した。
 はじめて見た4月28日から5月2日(a)までは、大きさも色も形もほとんど変化がなかった。この時点では大部分が径5〜12mmのお椀状だった。そして、11日(b)から16日(c)には急に大きくなり、多くは皿状になった。しかし、子実層にまだ胞子は見られなかった。
 23日になると時折胞子を放出する子実体がわずかに見られるようになった(d)。大きさや形、色は11日時点からあまり変化はない(径15〜45mm)。持ち帰った子実体からあらためて顕微鏡で観察した。カバーグラスにとった胞子紋を検鏡すると、胞子表面には微疣があった。水で封入した画像は分かり難いので、ここではフロキシン染色したものを掲げた(f)。また、子嚢は若い菌でも成熟した菌でも、ともに上半部が明瞭なアミロイド反応を示している(h, i)。
 この属のきのこでは、托外皮付近の構造に大きな特徴がある。数珠状に繋がる細胞があり、最外部の細胞には紐状の細胞が続く。そしてこれら全体が柵状に並ぶ。紐状の部分はゼラチン質に包まれているので、なかなか明瞭な姿の画像を得るのが難しい(k, l)。
 
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(a) 5月2日、(b) 5月11日、(c) 5月16日、(d) 5月23日、(e) 中心部断面、(f) 胞子:フロキシン染色、(g) 縁付近の断面、(h) 縁付近の断面:メルツァー試薬、(i) 子実層:メルツァー試薬、(j) 托実質、(k) 托外皮付近、(l) 托外皮付近:フロキシン染色

 とりあえずカバイロチャワンタケ Pachyella clypeata としておくが、胞子表面が平滑ではないこと、子嚢の上半部がはっきりとアミロイド反応を示すことなどから、ケシムラサキチャワンタケP. violaceonigraとするのが適切なのかもしれない。

2012年5月24日(木)
 
チャワンタケ仲間
 
 最初に出会ったのは4月28日であった(a)。、胞子を確認できないので3日に1回の割で現場に通いつづけた。最初にみつけてから約3週間でやっと胞子をつくりはじめていた(b)。ルーペを使って子実層を観察していても成熟しているかどうかはわからなかった。このきのこは成熟すると皿型か凸レンズ型になるようである。
 子嚢胞子は楕円形、平滑(c, d)、子実上層があり(e, f)、托外被層から生じる毛状菌糸はゼラチン質に埋まっている(g, h)。托髄層は絡み合い菌糸である(i)。カバイロチャワンタケ属としていいようだ。最近、子のう盤の構造観察に夢中になり、子嚢先端のヨード反応、弁の有無の確認を忘れてしまうことがある(j)。このきのこはホダ木ごと持ち帰り裏庭に置いてあった。丁度よく成熟していたのですぐ顕微鏡観察ができた。
 
(a)
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 川口に住んでいる頃は追培養でも1週間ぐらいで腐敗してしまうので諦めたことが多かった。何度でも観察に行かれる環境になって初めて分かったことがある。追培養を1週間ぐらいで諦めてはいけないという事である。 (Y. A.)

2012年5月23日(水)
 
自宅と周辺のきのこ
 
 自宅借家の庭には梅の樹下にハルシメジが出ている(a〜c)。よく見れば、その近くの腐朽した切り株からはPluteus(ウラベニガサ属)のきのこも出ている(d〜f)。「雑記」ではあまり積極的には取り上げてこなかったが、3月以来庭にはいろいろなきのこがでている。
 30分ほど歩くと石森山への遊歩道の起点がある。そこには、Russula(ベニタケ属)、Galerina(ケコガサタケ属)がコケの上から、ナラタケ類、ウラベニガサがウッドチップから、そしてフミヅキタケ、Agaricus(ハラタケ属)などが遊歩道脇のリターからでていた(g〜l)。マツオウジはまだ小さく、アオキオチバタケは最盛期を過ぎたようだ。石森山は適度な散歩コースだ。
 
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 電気料金が先月と比較して急に高くなった。標本室の除湿器の電気料金が加算されるのは来月請求分からだ。思い当たることといえば、3月後半から使用頻度が高くなっている「きのこ乾燥機」だ。古い布団乾燥機を使っているが何か対策を考えねばならない。

2012年5月22日(火)
 
自宅で追熟:オオシャグマタケ
 
 去る5月13日に日光で採取したオオシャグマタケ(a)はいずれも未成熟で、子嚢と側糸が未分化だったり、子嚢はあっても胞子はできていなかった。そこで、濡らしたキムタオルの上に載せ自宅の縁側に放置し、成熟を待つことにした(c)。17日に子嚢の一部を摘みとって確認したところ、一部の子嚢にようやく胞子ができはじめていた。昨夜のチェックで胞子ができあがったことを確認できた。胞子紋を取り、水(d)、フロキシン(e)、コットンブルー(f)、コンゴーレッド(g)、KOH(h)で封入して遊んだ。その後子実層を切り出して水(i, j)、メルツァー(k, l)で封入した。
 
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 この仲間(Discinaceae)には胞子表面に網目があったり、両端に嘴状突起をもつ種がある。しかし、これらの突起や表層組織はアルカリで溶けて消失してしまう(雑記2012.5.2同2012.5.4)。コットンブルーでは胞子表面の網目などは不明となり、コンゴーレッドでは両端の突起が消失してしまう。なお、シャグマアミガサタケには嘴状突起もなければ、網目もない。

2012年5月21日(月)
 
ケコガサタケ:乾燥標本から
 
 去る17日にいわき市の新舞子浜の防風林で採取したGalerina(ケコガサタケ属)(a)はその日のうちに胞子紋だけとって(d)、直ちに乾燥標本にした(b)。大きさこそあまり変わらなかったが、柄は細く硬くなり、ヒダは生状態(c)とは違ってシワくちゃになり非常にもろくなっていた。
 胞子は微疣におおわれ胞子盤をもつ(e, f)。ヒダを一枚外してスライドグラスに寝かせると縁に多量の縁シスチジアが見えた(g, j)。断面の切り出しは上手くいかず、縁シスチジアを捕らえることはできなかった(h)。側シスチジアも縁と同じような形と大きさだ(i, k)。クシャクシャになったかさ表皮からは、構造を明瞭な姿では得られなかった(l)。柄の表面にも便腹形からフラスコ形のシスチジアがある。菌糸にはクランプがあり、担子器は二胞子性。ケコガサタケのようだ。
 
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 一般に大きなキノコでは、生状態からよりも乾燥標本からの方が、切片作りは楽にできる。しかし、もろくて小さなキノコでは生でも乾燥状態でも切り出しは難しい。

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