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連日の猛暑とカラカラ陽気で何もする気になれず、気分転換に8月10日に警戒区域が解除されたばかりの楢葉町の林道に再び入った(雑記2012.8.11)、昨日は乙次郎林道よりさらに北に位置する井手川林道に入った。うまくすれば川内村に入れるはずだった。 美しい渓谷に沿って舗装された林道が続き、絶好のきのこ観察ポイントともいえるすっきりした林床のモミ林が次々に現れた。しかし、林床はすっかり乾燥し、ウスヒラタケやコウモリタケ以外にはきのこは全く無かった(a, b)。途中富岡町に分岐する林道は「通行止め」(c)。 さらに進んで川内村との境界に達すると、突然土嚢に道を塞がれた(d, e)。「通行止め」ではなく「終点」との表示。土嚢をずらそうと試みたが、びくともしなかった。トライアルバイクなら土管越えの要領で楽に通過できたろう(同2002.10.29)。やむなく、徒歩で川内村に入ると道は次第に荒れだし、分岐の先では草ボウボウで亀裂も生じ、四輪車では通行は無理そうだった(f)。 次に入った木戸川ダムへの道は土砂崩壊で不通(g)。しかたないので、海浜生菌類の棲息していそうな浜を目指した。つい最近までこのあたりは全く近寄ることができなかった場所だ。富岡町との境にある浜からは福島第二原発が指呼の距離にある(h)。津波被害でひどく荒れた道を瓦礫を避けながら無理矢理進むとここでも道路封鎖(i)。車をその場に残して浜を歩むと、第二原発の巨大な原子炉建屋とタービン建屋がそそり立っていた(j)。 楢葉町を離れ広野町の海水浴場に降り立った。駐車場には大きなテトラポットが津波に運ばれてあちこちに転がっていた(k)。すぐ脇には東京電力広野火力発電所がそびえていた(l)。砂浜には植生はほとんど無く、ここも海浜生菌類生存の可能性は低い。 この日の線量計は四六時中警報音を発し続け、一帯が高線量地域であることを痛感させられた。崩壊した道や瓦礫の中で、きわどいバックを何度も繰り返したので首が疲れた。 |
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明日(9/1)と明後日(9/2)は富士山できのこ観察。例年行われてきた行事で、三重県勢と関東勢が富士山で合流して、夜は河口湖畔の宿で宴会となる。今夜にはいわき市を出発だ。夜中じゅう走り続けて、明るくなれば山歩きになる。途中どこかで仮眠時間をとりたい。きのこがなければ、マルダイゴケなどの糞生苔(蘚苔類)とサルオガセ類やエイランタイ類(地衣類)の観察に切り替えだ。線量計の代わりに、コケ採集具を忘れないようにせねばなるまい。 | |||||||||||||
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先日川内村の子安川畔で採取したツチカブリは、新たに作った乾燥機を使った二番目の標本となった。第一番目の乾燥標本はタマテングノメシガイだった(雑記2012.8.22)。今朝は乾燥標本からこのツチカブリを覗いてみた(雑記2012.8.26)。 上段の6枚の画像はフィールドで、あるいは帰宅後直ちに撮影したもの。下段の画像は乾燥標本から切り出したもの。アオゾメツチカブリと多くの点でよく似ているが、カサ表皮の様子はやや違っていた(i, j)。ツチカブリではカサ表皮の組織が「アイタケ型」にやや似通っている(j)。カサシスチジアもある。柄の表皮や柄シスチジアもアオゾメツチカブリとよく似ている(k, l)。 |
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このきのこは現地で見たとき、ケシロハツモドキなのかツチカブリなのかよくわからなかった。帰宅後カサ表皮を顕微鏡の低倍率で見たとき、ケシロハツモドキではないとわかった。白色の乳液が数時間後にも白色のままだったので、ケシロハツの線は薄いと感じていた。 | |||||||||||||
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2週間以上の前のことだが、再び思い出したのでメモを残すことにした。 なぜかウツロイイグチと思い込んでしまうきのこがある(a)。管孔の色とサイズ、柄の表面模様、変色性を見れば、そうでないことはすぐにわかるのだが(b, c)。ところが思い込みとは恐ろしいもので、ある日の雑記で「ウツロイイグチ(に似たきのこ)」と躊躇無く書いた。そして胞子紋をとる処置をして、すぐに乾燥標本にしてしまった(雑記2012.8.14)。 その後、胞子を見るとソラマメ形をしていた。しかも菌糸にはいたるところにクランプがある(f)。この時点ですぐにGyroporus(クリイロイグチ属)であるとわかったので、「クリイロイグチ(に似たきのこ)」と修正した(雑記2010.7.25)。乾燥標本にしたきのこには、担子器や偽担子器はやたらに目立つが、なぜか縁シスチジアはみつからなかった(e)。 |
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庭ではオニヤンマの姿が減り、何種類かのアカトンボとオハグロトンボが飛び回っている。シオカラトンボも8月半ば頃から姿を見せはじめたが数は減ってきた。 | |||||||
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先日福島県内の湿原を歩きまくったときに、何ヶ所もでキミズゴケノハナに出会った(a〜f)。昨年まではミズゴケからでるきのこといえば、いずれもすべてミズゴケ節(Sect. Sphagnum)のコケからでていた。そこで、ミズゴケ節以外のコケからはきのこは出ないものとばかり思っていた。 ところが、今回であったキミズゴケノハナもミズゴケタケ、ミズゴケタケモドキもすべて、ミズゴケ節以外のミズゴケから出ていた。(a)(b)はウロコミズゴケ節(Sect. Squarrosa)、(c)はハリミズゴケ節(Sect. Cuspidata)から出ていた(雑記2009.10.8)。 数年前にキミズゴケノハナを採取したときには胞子紋が全くとれなかったが(同2009.7.10)、今回は多量の胞子紋が落ちた。ミクロの観察結果は、2009年7月に観察した結果と同様だった。カサ表皮(l)の毛のような菌糸にだけクランプがあるが、他の部分にクランプはない。 |
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7月7日に降雨があったが、それ以降ずっと雨が降らず(いわき市小名浜7月の天気、同8月の天気)、庭のすぐ脇の小川はすっかり干上がってしまった。ホテイアオイは大半が枯れ、ザリガニやドジョウの死骸が無残な姿を曝している。野菜や草花も元気がない。 | |||||||||||||
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川内村の子安川畔に、カサ表面も柄も全体が粘液に被われてヌルヌルしたイグチが出ていた。若い菌ではカサ直下に、白色で粘液に被われたツバをもっている。柄には縦の条線がある(a〜f)。成菌では管孔部は柄に湾入している。変色性はない。 胞子紋は数時間でたっぷり落ちた。胞子表面は平滑で(g)、濃硫酸で封入すると胞子の外壁は結構厚みがあることがわかる(h)。管孔部を縦(i)、横(k)に切ってみたが、側シスチジア(o)は疎らで、縁シスチジア(m, n)も分かりにくかった。担子器の基部にクランプはない。カサ表皮は外壁に色素を帯びた菌糸が錯綜して立ち上がり、先端はゼラチン質の中に伸びている(q, r)。担子器の基部にクランプはない(p)。ほかの部分の菌糸にもクランプはない。 |
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フィールドでの肉眼的観察からはアキノアシナガイグチ(Boletellus longicollis)を思わせた。そして、柄が比較的短く全体に背丈が小さいのは、猛暑と雨不足のためだろうと思った。
しかし、この胞子は平滑である。アキノアシナガイグチなら胞子表面には分岐する縦条があるはずだ。したがって、このきのこはアキノアシナガイグチではない。 胞子その他の形質はSuillus(ヌメリイグチ属)を思わせる。あらためて考察を進めると、ヒメヌメリイグチ(Suillus viscidipes Hongo)に落ちた。マクロとミクロの姿は、青木図版No.266, No.1044に詳しい(名部みち代編『日本きのこ図版 第五巻』p.124〜p.130)。 それにしても、肉眼的にはアキノアシナガイグチとヒメヌメリイグチは実によく似ている。アキノアシナガイグチの小振りな幼菌と、ヒメヌメリイグチの大きめの幼菌の両者をみれば、肉眼的には識別困難だ。似通った例としてキヌハダトマヤタケとキヌハダニセトマヤタケ、シロトマヤタケとシロニセトマヤタケ、ミズゴケタケとミズゴケタケモドキ、テングノメシガイの仲間、などなど多数列挙できる。あらためて顕微鏡観察の重要さを痛感した。 |
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川内村でも雨不足のせいかきのこの姿は相変わらず非常に少ない。いわなの郷から荒れた林道を上がると、道の両側一面に大型イグチが多数でていた。異様な光景だった。いずれもニセアシベニイグチによく似ている(a, b)。でもそれ以外のきのこは全くない。 子安川の流域ではイグチ類とチチタケ類が何種類もでていたが、それらの多くはカビにおかされていたり、虫に食われて無残な状態だった。オオコゲチャイグチのような大型菌(c, d)や腐朽木からでていた大型イグチ(e, f)も、その例外ではなかった。 キヒダタケの仲間の小さなきのこは多数見られた(g, h)。ツチカブリ(i, j)やクロチチダマシ(k)、チチタケ(l)も見られたが、大半はナメクジなどに派手に食われていた。 |
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結局大型イグチの類は一切採取しなかった。持ち帰ったのは、ごく一部の小型のきのこだけだった。片道50kmほどの行程を軽自動車で往路は70分ほど、復路はなぜか45分で帰宅した。 | |||||||||||||
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先日磐梯吾妻地方の湿原でテングノメシガイの仲間を見つけたので(雑記2012.8.21)、ひょっとして他の湿地でも出ているのではあるまいかと思い、払暁から夕方暗くなるまで、県南の会津地方から県北まで、湿原をいくつも巡ってみた。結局他の湿原では全く見られなかった。 湿原のミズゴケ上には、キミズゴケノハナ(a, b)、ミズゴケタケ(モドキ?)(c, d)、小型のイッポンシメジ属が高い頻度で見られた。テングノメシガイの仲間は、ミズゴケがあるからといって、簡単に見つかるきのこではないのかもしれない。 |
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湿原周辺のブナ帯では、タマゴタケ、アカハテングタケ、オクヤマニガイグチ(e, f)、少数のベニタケ属とチチタケ属で、極めて少数のきのこしか見られなかった。倒木や腐朽木はすっかり乾燥しきって、軟質菌の姿は全くなかった。一般道と林道ばかり、走行距離は550kmに及んだ。猛暑の湿原歩きと長時間運転のせいか、帰宅するとぐったりしてしまった。 | |||||||
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先日の図面に基づいてきのこ乾燥機を作った。工作時間は約3時間。いっぺんに多数のきのこを乾燥できるように、金網も三段まで使えるようにした(a, b, c)。 携帯用のきのこ乾燥機セットと比較するとずっと大きく、金網は面積で倍以上ある(d)。夏は縁側のすぐ外側に設置して、室内からガラス戸を開けて操作できるようにしたが(c)、冬になれば廊下(縁側)に入れて暖房兼用に使うつもりだ。タイマーで操作する(e)。 乾燥機の横の小穴に従来から使っているポケットバイメタル温度計を各段の位置に差し換えて温度の確認をする(f)。天板は原則として開放状態とする。 |
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製作に要した材料費は、ベニヤ合板1枚 1,000円、木ねじ数種 400円、木工用ボンド 100円、バーベキュー網(450×300mm) 3枚 2,400円で、計3,900円となった。ポケットバイメタル温度計、セラミックヒーター、タイマーは既に手元にあるものを流用することになる。前面を8mm厚の耐熱強化ガラスにする予定だが、さらに1万円強ほどかかるので今回は見送った。 これにバイメタル温度計、ヒーター、タイマーを計算に入れると、温度計が600円、超小型ヒーターが4,800円、タイマーが600円と合計6,000円なので、総経費は9,900円ということになる。布団乾燥機はあまりにも古く、すでにかなり老朽化していて購入時の価格もよくわからない。 |
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きのこ乾燥機を作るための合板や木ねじ、木工用ボンドなどは調達できた(雑記2002.8.20)。場所と工具類はそろっている。あとは図面に基づいて工作するだけだ。熱源としては、超小型ヒーター[300W](a)をメインに使うが、小型ヒータ[550W](b)と布団乾燥機[500W](c)も利用可能にする。ヒーターには火災防止のため壁などから隔離する距離などが記されているので、そういった件と、狭い密閉空間内での熱源本体の異常加熱の件を検証してみた。 模擬実験には製作予定の乾燥機の容量とほぼ同容量の段ボール箱を使い、各熱源を使った場合の温度上昇を確認した(d)。段ボール箱を密閉状態で1時間、次いで天を開放状態で2時間、各熱源を電源オンにして、ポケットバイメタル温度計(e)で計測した。 |
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密閉状態で1時間経過後の箱内上部の温度は、超小型ヒーターでは60〜70度、小型ヒーターでは70〜80度になった。段ボールの天を完全開放にすると、それぞれ45〜55度、55〜65度程度をずっと保った。布団乾燥機は、段ボール下部に穴を開けて使うと40〜60度になるが、箱内部に設置すると異常加熱ですぐにストップしてしまう。これに対して、ヒーター類は本体内部温度が75度を超えるとストップする仕様になっているが、それぞれ3時間の連続運転は可能だった。 いっぽう素材の発火点は、木材が摂氏250〜260度、新聞紙が290度、模造紙が400〜450度。したがって、火災の恐れはない。きのこは紙の採集袋に入れたまま、ステンレス網の上に置いて乾燥する予定だ。結果として、天を開放にして超小型ヒーター(a)を使うことにした。 |
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昨日の雑記で記したテングノメシガイを覗いてみた。胞子には隔壁が7つある(e)。多くの子嚢は弱いアミロイドだが(h)、非アミロイドの子嚢もかなりみられる(i)。側糸が特異な姿をしている。先端部が類球形をしていて、それに続く数細胞も丸味を帯びている(j, k)。先端の類球形の部分は簡単に分離して、子実層面に漂っている。柄の表面にも側糸とよく似た組織がある(l)。 頭部に剛毛がないからTrichoglossum(テングノメシガイ属)ではない(c, d, f)。胞子に7隔壁がある点はナナフシテングノハナヤスリ(Geoglossum glutinosum)に似ているが、側糸の形状がまるで違う。川村清一『原色日本菌類図鑑 第七巻』に記されたタマテングノメシガイのようだ。川村は学名としてG. glabrumをあて、「glabrumは無毛の義」と解説している。ややこしいシノニムの件は棚上げにして、G. sphagnophilumとするのが妥当のようだ。種形容語としての「sphagno」はミズゴケ属(Sphagnum)の学名、「philum」は「〜を好む」というラテン語だ。 海外のサイトに掲載された写真をみると、信頼性の高いサイトでは必ずミズゴケの中から発生している画像を掲載している。数年間さんざんミズゴケを追いかけてきたが、このきのこに、これまでなぜ出会わなかったのか不思議に思う。 |
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ところでホストのミズゴケは肉眼的には明らかにミズゴケ節(Sect. Sphagnum)だが、枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚があることからもそれは裏付けられる(o)。枝葉の背面から細胞壁をみると、疣状の突起が多数見える(p)。枝葉の断面を見ると、透明細胞に挟まれた葉緑細胞の壁に多数の疣が見える。これはイボミズゴケ(S. papillosum)だろう(標本694、同528)。 |
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昨日、五色沼から磐梯吾妻スカイラインへと車を走らせた。小野川湖の周辺にはハルニレがあることを確認できた。いずこもきのこの姿はほとんど無かった。周辺のキャンプ場でもきのこは極めて少なく、わずかにInocybe(アセタケ属)、Collybia(モリノカレバタケ属)、Russula(ベニタケ属)がごく少数みられただけだった。それらも多くは激しくカビにおかされていた。 センニンタケが昨年豊富に出ていたハイキングコースを歩いたが、ここにもきのこは全くなく、途中の湿原にミズゴケタケ(or ミズゴケタケモドキ)が見られただけだった。意外だったのはテングノメシガイの仲間がミズゴケの中から多数でていることだった。 |
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保育社『原色日本新菌類図鑑』には、テングノメシガイの仲間は「腐朽の進んだ材上あるいは落葉間腐食質上に生じる」とある。ゼニゴケなど葉状体タイ類や、ハイゴケやチョウチンゴケなどの蘚類の間に見かけることが多かったが、まさかミズゴケの間からでるとは思いもよらなかった。柄の長さも10cm以上ある。コケはSect. Sphagnum(ミズゴケ節)のミズゴケのようだ。 | |||||||
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