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すっかり乾燥しきったモミジウロコタケ | |||||||
今の時期広葉樹の倒木や切り株にはカタウロコタケ属 Xylobolus のきのこがよく付いている。最もよくであうのはカタウロコタケの仲間だが、モミジウロコタケの群生にもよく出会う。このところ朝の散歩でカメラを持っていない時に限って典型的なモミジウロコタケに出会う。ここで取り上げたのは肉眼的には非典型的なモミジウロコタケだ(a, b)。 既に発生からかなり時間が経過しているらしく、裏面を傷つけても赤色の汁は全くでない。菌糸構造は二菌糸型のようだ(d)。きのこの断面を切り出して子実層を見ると、大型の棍棒状の菌糸と汁管菌糸らしきものがあるが、いまひとつはっきりしない(e)。フロキシンで染めてKOHで封入してバラしてみたが、やはりよくわからない(f)。 |
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[ギリシア語とラテン語の基礎を並列的に知る] 小倉博行著『ラテン語とギリシア語を同時に学ぶ』(白水社)を購入した(g)。2012年のメルボルン規約(国際藻類・菌類・植物命名規約)で新種発表にラテン語記載は不可欠ではなくなった。だからといって生物学徒にラテン語の知識が不要になったわけではない。さらに菌類にかかわらず、学術用語の多くがラテン語由来だし、またその大部分がギリシャ語起源だ。 この小冊子は二つの古典語の基礎を両者を併記しながら解説している。こういった書籍は海外にはあるが、日本語で書かれたものとしてはおそらく初めてだろう。著者のもくろみが成功したかどうかは読者次第と思われる。少なくとも自分にとっては役立つ一冊になりそうだ。 |
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ミヤマチャウロコタケ:毛むくじゃらで血汁がでない | |||||||||||||||||||
数日前に日光市の憾満ガ淵を散策していて出会ったキウロコタケ属についての覚書。全く離れた別の場所で採取した二標本(a〜cとd〜f)の肉眼的観察結果と顕微鏡での観察結果はほぼ同一だった。いずれも半背着生でカサ表面が一面に白色の毛に覆われていて子実層托面を傷つけても血色の汁が全く出ない(c, f)。胞子は長楕円形でアミロイド(k, l)。 12月12日にも高原山釈迦ヶ岳中腹のイヌブナ帯で同じきのこに多数であっている(g〜i)。観察結果は三者ともほぼ同一なので、釈迦ヶ岳で出会ったきのこの検鏡画像で代表させた。 きのこの断面を見ると毛被の下に褐色の下皮層がある(j)。菌糸構造は二菌糸型で(m)、原菌糸にクランプはない(n)。子実層の断面を切り出して(o)、倍率を上げてみると厚壁の汁管菌糸(らしきもの?)が見える(p〜r)。担子小柄をともなった担子器は見つけられなかった。 Stereum ochraceo-flavum (Schw.) Ellisに限りなく近いように思える。これにはミヤマチャウロコタケという和名があてられているので、それにしたがうことにする。子実層托を傷つけても汁がでないことはStereum(キウロコタケ属)のなかでは異色の存在だ。意外とどこにでもあるきのこであるにもかかわらず、国内の代表的な図鑑にはほとんど掲載されていない。 |
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カサ裏面がちょっと変なハカワラタケ | |||||||||||||
宇都宮の都市公園で広葉樹の枯木にビッシリとついていた薄手のきのこを採取した(a, b)。カサ上面には微細な毛がビロード状に生え基部には緑藻もつき(c, d, g)、カサの裏面は針状から薄歯状になっている(c, e)。菌糸構造は三菌糸型にみえる(h)。原菌糸にはクランプがあり(i)、結合菌糸は細いものやら骨格菌糸と同じような太いものもある(j)。先端に結晶をつけたシスチジアは見当たらなかったが(k)、担子器は明瞭にわかった(l)。カサ裏面はアラゲニクハリタケのような姿をしているが(e)、たぶんハカワラタケなのだろう。
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朝の散歩の途中で出会うキノコが急激に少なくなってきた。昨日と一昨日出会ったのは、ニガクリタケ(m)、カワウソタケ(n)、チヂレタケ、カワラタケ、カイガラタケ、アラゲカワラタケくらいだった。鹿糞から出た径0.2〜0.8mmほどのチャワンタケ(o〜q)を久々に観察した。 冬場は木の葉がすっかり落ちて、自宅前から女峰山がよく見える(r)。累々と連なる甍やビルではなく眼前に田園と山々が見えることは素晴らしい。今朝はすっかり霜で覆われている。 |
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この寒い季節にワサビタケが・・・ | |||||||||||||
昨日午前中、サカズキカワラタケの様子を見たいと思って日光市の名勝憾満ガ淵を散策した。サカズキカワラタケはいたるところに出ていて目的は果たせた。ふと倒木をみるとワサビタケが出ていることに気づいた(a〜c)。一般的には夏から秋にかけて出るきのこで、まさか12月に出会うとは思いもしなかった。念のため持ち帰っていろいろと確認してみた。 小さなきのこで、噛んでみると非常に辛い。偏心した位置に短毛の生えたやや短い柄があって(d)、隣接するヒダの間には脈絡脈があり(e)、胞子がアミロイドで(f)、とらえどころのない妙な形の縁シスチジアがあることを再確認した。間違いなくワサビタケだ。 キノコの断面を切り出して(g)、ヒダの先端をみるとモヤモヤとはっきりしない(h, i)。ヒダを一枚スライドグラスに寝かせて縁をみると確かに縁シスチジアらしきものを確認できる(j)。フロキシンで染めてKOHで封入して押しつぶしてみると、それらしき構造を確認できる(k, l)。 |
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久しぶりにカサと柄をもったやわらかいきのこを扱うことになったが、ヒダの断面を切り出すのに難儀した。暖かいとはいえ12月だ。レイノー症の宿命で手足の指先が冷たくなり四六時中痛みを伴い上手く動かせないため、なかなか思い通りの切り出しができなかった。 | |||||||||||||
南側から高原山釈迦ヶ岳登山口へ:しかし・・・ | |||||||
高原山釈迦ヶ岳へ登るメインルートは東西に二つある。東側からは矢板市八方ヶ原の大間々台から剣ヶ峰経由のコースがある。一方、西側からは、日塩もみじラインの西口駐車場から弁天沼経由のコースがある。昨日これらとは別の、南側の塩谷町釈迦ヶ岳開拓地区登山口から西平岳経由のルートを目指した(a)。静かでハイカーの少ないルートだ。 主目的が登山ではなくきのこ観察なので、例によって可能な限り車で入ることにした。開拓集落の農場脇から釈迦ヶ岳林道に入った。やや荒れた未舗装路を進むと(b)、やがて亀裂の激しい悪路となった(c)。そこを無理に進んでいくと、ついに全く進めなくなった。難儀して後退し、狭い悪路で際どい方向転換をした。往路を戻りやや広い場所に車を駐めてそこから徒歩で進んだ。 西平岳登山口には小鳥の巣箱のような登山届けの受箱がある(d)。最新の登山届け書は日曜日(12/13)に入った一組のハイカーだった(e)。われわれ同様、悪路の途中で難儀して車をバックさせた痕跡が残っていた。径脇の立ち枯れの樹の洞には石仏が奉られていた(f)。 やや急な登山道を登ってみると周辺は若いミズナラ、カンバ、シデなど主体の森で、倒木や立ち枯れは少なく、硬質菌もごくわずかしかみられなかった。足下は深い笹藪が密生していて、きのこ観察にはあまりよい環境とは思えなかった。この時期、軟質菌はエノキタケやナメコ、ヒラタケ、フユヤマタケ以外はほとんどないが、この日出会ったのはヒメキクラゲだけだった。 |
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平成27年9月の関東・東北豪雨による被害はここでも予想を遙かに超えていた。豪雨による林道の亀裂と抉れがなければ、西平岳登山口まで車で入れるはずだった。 | |||||||
ウスバシハイタケ?:ホストは松だが・・・ | |||||||||||||
近くの都市公園で松の伐採木にシハイタケ属のきのこが無数についていた(a, b)。カサ表面は短い綿毛で覆われている。シハイタケにしてはやや大きく、乾燥した部分でもカサ縁は内側に曲がり込んでいない。下面は不規則な薄歯状で(d, e)、紫色を帯びたものはなかった。 一晩でたっぷりと胞子を落としたので確認してみた。胞子は楕円形で非アミロイド(g)、シロハカワラタケやハカワラタケの胞子はもっと細長い。どちらかと言うとウスバシハイタケの胞子に近い(f)。薄歯の部分を薄切りにしたかったが、厚切りになってしまった(h)。水やKOHで封入するとコントラストが弱く目が疲れる。フロキシンで染めて縁を見ると、先端に結晶をつけたシスチジアが見える(i)。これまた厚くて見づらいので押しつぶしてみた(j)。菌糸構造は二菌糸型なのか三菌糸型なのか判然としない(k)。原菌糸にはクランプが多数みられる(l)。 肉眼的にはシロハカワラタケ(雑記2015.11.13)のようにも見えるが、胞子やシスチジアからはウスバシハイタケ(同2015.11.11)とするのが適切なようだ。しかし、松に群生していたことからシハイタケ(同2015.11.12)の可能性も否定できない。いずれにせよシハイタケ属(Trichaptum)のきのこには間違いない。 |
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相変わらず暖かい日が続いている。昨日の午前中散歩の途中で路傍の倒木からエノキタケが出ていた。日光に転居してからは初のエノキタケだ。昼食のうどんの具になった。 千葉菌類談話会から【講演会:きのこ講話】の案内が届いた。「今年の年末は豪華講演会です.博物館で開催する都合上,博物館との共催とし,一般の方にも無料開放いたします.」とある。非常に興味深い内容だが、宿泊施設が確保できなかったので今回は参加しない。
日時:12月26日(土)13時30分〜16時(受付13時から,講堂前で) |
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傷つけると血の色の液がでる:チウロコタケ | |||||||||||||
11月はじめ頃から近くの都市公園に新鮮なチウロコタケが出ている。雨に濡れている時(a)と乾いている時(c)とでは随分と印象が違う。半背着生のきのこだが、新鮮なきのこでは子実層托面を傷つけると血のような色の紅い液がにじみ出る(d)。 菌糸構造は二菌糸型で、原菌糸にクランプなどはない。きのこの断面を切り出し(f)、さらに薄切りにしてみた(h, i)。カサ表面には毛があり(c, f, h)、子実層面には汁管菌糸が見られる(l)。胞子はアミロイドで、若いきのこからは多量の胞子が散布された(g)。 |
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キクラゲの仲間がいろいろと:尚仁沢イヌブナ帯 | |||||||||||||
昨日午前中に高原山群の釈迦ヶ岳登山口から歩き出して、中腹にあるイヌブナ原生林の周辺を散歩した。異例の暖かさの中のんびりと山歩きを楽しむことができた。 さすがにカサと柄をもったきのこはなかったが、広義のキクラゲ類がいろいろ見られた。シロニカワタケ(a)に出会ったのは久しぶりだった。シロキクラゲ類特有の担子器(b)とクランプをもった菌糸(c)、類球形で短嘴状の突起をもった胞子が特徴的だ(d)。 小さな明黄褐色のきのこ(g)には、アカキクラゲ類特有の音叉状の担子器と未成熟胞子がみられた(h)。菌糸にはクランプはない(i)。改めて胞子紋をとると短いソーセージ形をしていた。さらに一晩胞子紋をとってメルツァー試薬で封入したところ、胞子は隔壁を持ち分生子を生じていた。胞子の形は短いソーセージ形というよりも腎臓形というべきか。ヒメアカキクラゲのようだ。 そのほかのキクラゲ類ではハナビラニカワタケ(e)、ヒメキクラゲ(f)、タマキクラゲ(k)、アラゲキクラゲなどに出会った。今頃まさかと思ったのが子嚢菌のミミブサタケだった(l)。 |
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釈迦ヶ岳中腹、尚仁沢上流に広がるイヌブナ原生林はとても見事だ。先日(12/8)は沢沿いの廃道を辿って行ったが、昨日は尾根沿いの安心できる小径からたどり着いた。 | |||||||||||||
アラゲカワラタケ:どこにでもあるきのこ | |||||||||||||
アラゲカワラタケは全国的にどこにでもよく見られ、類似のきのこが少ないことから間違えにくいきのこだ。たいていはカサを大きく張りだして重なりあうように発生するが(a, b)、時には子実体の半分以上が背着していることもある(c, d)。孔口は3〜4個/1mmで、背着している部分では乱れることもある(d)。菌糸構造は三菌糸型で(h)、原菌糸にはクランプがある(i)。サンプルは10月に日光市と塩谷町で採取したものだ。いわき市時代にも一度取り上げている(雑記2014.12.24)。
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干し柿作りの失敗はわが家だけではなかったようだ(雑記2015.11.11、同2015.11.23)。近隣の農家や産地直売所などで聞いたところによると、例年通りの時期に干し柿を作り出したところでは、かなり高い比率で黴にやられて失敗したという。全滅の農家も結構あったという。11月の高温と多雨が原因らしく、干し柿製造業者でも思い通りの製品ができなかったという。 |
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リュックの底に忘れられていたきのこ二題 | |||||||
たまたまリュックに入れっぱなしだった軍手を取り替えようと中身を外に出したら、底の方にきのこの入った袋が二つあった。10月末と11月半ばに採取したきのこだった。
[ヒメシロアミタケ:山渓「フィールドブック」にはカサ上面の写真はない] |
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[ネンドタケ?:非常に硬く、剛毛体がほとんどない] 今ひとつはタバコウロコタケ科のとても硬いきのこだった(g, h)。袋には「ネンドタケ?」とあり、日付と場所をみると10月31日に栃木市みかも山公園となっていた。すでに1ヶ月以上放置されていたことになる。非常に硬くてナイフで切ろうとしたところ刃がこぼれてしまった。ナイフやカミソリが使い物にならないので、ノコギリで切ってカンナで面をなめらかにした(k)。 カサ裏の孔口面までをカサ表皮のような組織が随所で覆っていて、孔口のサイズが今ひとつはっきりしないが、6〜8個/1mmくらいのようだ(j)。二菌糸型で(l)、原菌糸にクランプがあるかどうかはわからなかった。また剛毛体らしきものがほんのわずかしかなかった。ネンドタケのように思えるが、あまりにも硬く、剛毛体もほとんどないので別のきのこかもしれない。 |
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11月はじめの雑記に「硬いきのこ中心になってしまいそうだ」と書いたが(雑記2015.11.4)、今年の11〜12月の「雑記」は大部分がいわゆる硬質菌についてのメモとなっている。 | |||||||
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